当記事では、ドイツミュージカル『Mozart!(モーツァルト!)』のミュージックナンバーの原文を趣味で自炊翻訳したものを掲載しています。気が向き次第増えるかもしれないですが、全曲ここですべて発表する気はありません。以下、注意事項。
歌詞中に見られる韻などは力量不足のため翻訳文で再現できていません。
同様に、メロディーラインに乗せられるような訳し方もしていません。その代わり、できるだけ原文が言い表しているものを拾うようにしたため、日本語版ミュージカルの歌詞とはいろいろ違いが出せているのではないかと思います。
原文は併記しておりませんので、各々適当に参照してください。
最後に。素人が趣味で読んだものなので、誤った翻訳が生じている場合が多分に考えられますので、よろしければ、お気づきの方はお知らせください。
2020/08/28 『影を逃れて』の「どうしたら このとても美しいシンフォニーを」の部分の誤訳を修正しました。
2020/09/14 『母の死』の「それなのに僕は連中に取り囲まれている」の部分の誤訳を修正しました。
2020/10/09 『モーツァルトの混乱』の「自分のものがいないと」の部分をニュアンス調整の修正をしました。(修正前:自分自身がいないと)
2020/10/16 『心を鉄で閉じ込めて(リプライズ)』の「父さん、僕はあなたに証明できるって期待していたんだよ。」「だけど その期待じゃあなたと仲直りできなかったね」「あなたはのもの僕から離れてしまった」の部分を修正をしました。参考に用いた歌詞サイトと台本のコンマ位置や「du」の欠如などが違ったため。(修正前父さん 僕は期待し、あなたに証明した / だけど その期待じゃ仲直りできなかったね / あなたは僕から離れてしまった)
2024/10/28 『あらすじ』の「内容」をあらためて読み直し、全体的に修正しました。
ドイツ語原題の後に()で日本語版ミュージカルのタイトルを付記しています
あらすじ
おまけで、『Mozart!』の台本に書かれているあらすじの訳も掲載しておきます。当方、2001年版と2016年版を所有しておりますが、どちらも書かれている内容は同じものでしたので、特にどちらのほうを採用したということは御座いません(※厳密に言えば、誤字による違いなら2カ所あるのですが)。
ショウペンハウエルからの引用
あらゆる子供はある意味では
一つの天賦の才であり、そしてあらゆる天賦の才とは
ある意味では一人の子供でもある。
内容
『Mozart!』は、或る芸術家の物語であり、〔彼は〕あらゆる束縛〔※または「抑圧、強制」〕から身を振りほどくべく、自分自身の天賦の才に相応しいものとなることを目指そう〔とする物語なのである〕。
特に、〔独占的かつ支配的にその存在の〕所有権を保持しようとする愛〔で以て〕専制的〔=暴君的〕に〔自分の〕世話をしている父親、この〔存在〕に対し、彼〔=或る芸術家、つまりモーツァルト〕は〔可能な限り〕早い段階で抵抗〔し、身を守るということを〕する必要がある。「成長すること」という一つのドラマ、それは彼〔にとっては〕他のもの以上に衝撃を与えている〔ものである〕。それというのも、モーツァルトは子供〔の頃であった時分で〕すら、他のあらゆる者たちとは〔違っていたためである〕。〔彼を取り巻く、〕彼の父親と〔彼に〕感嘆する一つの世界とは、彼を子供らしさの総体的概念〔※または「最高のもの、模範、権化」〕へと、〔そしてその〕理想的なものの極致〔に至るようにと〕指名し〔、そういう存在であるのだと彼を宣告し〕てきたのである。
小さくて愛らしい陶器の子供、それが彼〔=与えられた概念、彼の才能〕の表向きの〔姿〕であり、〔それは肉体が〕成長してもなお、一個の影のように〔大きくなった自分を〕追いかけ回している。われわれのミュージカルにおいては、彼は実際にこうしたことを行う〔ものとして登場させている〕。それはモーツァルトの才能を具現化したものなのだ。舞台上では二人のモーツァルトたちが〔己の役を〕演じることになる。〔つまり、〕人間であるヴォルフガングと「神のごとき」アマデ〔の二人が〕。
この小さなアマデは成長したモーツァルトのその人生の至る所に常に存在しているが、それを見ることができるのは彼自身〔=成長したヴォルフガング〕と観客たちだけである。この驚異的な少年は間断なく作曲を続けており、大抵の場合は楽譜用紙でできた堆積物〔の上〕に圧し掛かるようにして〔身を〕屈めている〔姿で見られる〕。成長したヴォルフガングがギャンブルに興じていようとも〔※または「演奏する」の語彙でもある。〕、酒を飲んでいようとも、生き、夢見ていようとも〔アマデはそうしたことには構わずに書き続けているのである〕。
この戦いの中で、──ヴォルフガングが自身の芸術家としての才能を取り巻くものに対して主導権を握るためのこの戦い〔の中で〕──、アマデは〔、一見すると〕全く〔それに〕協力していないように見えるものとなっている。人間モーツァルトは、自身の雇い主であるコロレド王子司教による力〔※「威力、支配力」〕の要求に〔独りで〕逆らい、自分自身の意志を押し通さねばならない。そしてまた、ウェーバー家〔という存在〕を介して〔彼を利用し〕操ろうとするものに抗うのにも自分の才能が彼を助けることはないのである。逆に、自分の芸術に関する〔その〕素質のためにこそ〔彼は〕虚偽〔※「見せかけ、まやかし、嘘」〕や陰謀といったもののためのちょっとした犠牲になってしまうのである。〔その心中にある〕燃え上がっている望みは、全力を賭した人生のほうに彼が行くがままに放置し、〔斯くして彼は〕ただひたすら無力なままに都会たるウィーンの誘惑やうわべだけの友らの欺瞞に屈するしかなくなってしまうのである。
〔このように、〕彼をアルルカンとして演じさせるというやり方で、障害と苦痛とがモーツァルトを征服してしまったのだ。彼は幾つかの異なる役割をさっと羽織って〔役割を演じて〕いる。この世界は彼にはいよいよ舞台じみたものに思われてくるものとなり、そこでは〔この舞台に現れる〕全ての参加者たちは仮面を身に付けているのである。彼が本当に頼ることができるのは彼が〔愛している人である〕コンスタンツェのみである。この〔コンスタンツェ〕は、彼のことをその才能のために愛しているわけではなく、人間として愛してくれているのだ。彼女は、陽気さを、滑稽でありながらもロマンチックな瞬間を彼の人生の中に与えてくれる〔人物なのである〕。
だが、結局のところ天才〔=才能の化身であるアマデ〕が繰り返し要求し続けるのは〔、自分にとって〕正しく〔て都合がよい〕といえるものなのである。最悪〔※「極度の、極端な」のニュアンス〕の結果に至るまで。
Act.1
Prolog(プロローグ)
[Dr. メスマー(セリフ)]
どこにあるのか、あなたは全てご存知なのでは?
[ニッセン夫人(セリフ)]
このあたりのどこかよ
[Dr. メスマー(セリフ)]
このあたりにはもう墓は一つもありませんぞ。あるのは十字架もない石だけだ。
[ニッセン夫人(セリフ)]
彼の墓に十字架はないの
[Dr. メスマー(セリフ)]
今や、こうなったからには(きちんとした)墓石を置くべきでしたな、マダム・モーツァルト
[ニッセン夫人(セリフ)]
ニッセン。私の名前はニッセンです。今はもうモーツァルトではないわ。何度 繰り返し訂正したらいいのかしら?
[Dr. メスマー(セリフ)]
あなたはかの故人に対する責任がおありでしょう、マダム
[ニッセン夫人(セリフ)]
それはそれです。ここよ
[Dr. メスマー(セリフ)]
確かなのですね?
このへんの会話は、「それはそれです。その時だけのことよ」「あなたはそれで安心できるということですね?」というふうに読みかえることもできるようになっているのかも?
[ニッセン夫人(セリフ)]
ええ そうね、私は……
[Dr. メスマー(セリフ)]
ならば ここに彼が埋葬されたということですね? ジャン・ピエール!
[ニッセン夫人(セリフ)]
そして今 5000(グルデン)を、メスマーさん。私はあなたを彼の墓まで案内したわ。
[Dr. メスマー(セリフ)]
ここは魔法のように抗いがたい場所だ。ねえ! 耳をすませてみてはどうです?
- 「Écoutez!」はフランス語。相手の注意を促し、「ねえ、おい」などのように呼び掛ける。「ecouter」は「注意して聞く、耳を傾ける、身を任せる」などの意味。ちなみにこの直後に「Hören」とドイツ語で同様の言葉で言い換えて話している。
- メスマーはニッセン夫人(コンスタンツェ)を「マダム」と呼んでいたり、フランス語を交えている。
- 「magischer魔法のように抗いがたい」。このへんの言葉は本作で繰り返し出てくるものの一つ。
[ニッセン夫人(セリフ)]
早くあなたの務めを果たしてくださらないかしら。冷えるのよ
[Dr. メスマー(セリフ)]
マダム。聞くんだ!
[ニッセン夫人(セリフ)]
何をです?
[Dr. メスマー(セリフ)]
音楽の果てなき宇宙、彼はそこからやって来た……
星のようにこの地上に降ってきた……
一人の神の子……
4行目のみ「Un enfant de Dieu...」とフランス語で発言されている。
Ich bin Musik(僕こそミュージック)
あの人が重ねて言ってくることが何なのか
おまえは分かってるだろ、おまえが望むこととできることが何なのか
おまえを通して僕は自由になるんだ
僕たちはただやるだけだろ、僕たちを喜ばせる何かを
おまえと僕
負わされているものはなにもなく 不安に思うこともない
僕たちが果たせる義務なんてどうでもいいものだろ
僕たちはこの世界すべてに魔法をかけるのだから
8行目の「verzaubern魔法をかける」は、「魅了させる、うっとりさせる」の意。
僕はどんな権力も乗り越えて過去の遺物にする
たとえそれが重荷になったとしても
僕は楽しむんだ
分かってるんだよ、それを
僕の才能が望んでるんだって
それで僕は一人立ちできるんだって
奇跡はまた起こるんだ
なんであれ 僕自身であるがゆえに
僕はとにかく本物を掴み取らなくちゃ
だってとにかく僕が持ってなくちゃいけないものだろ
その力は、天が僕に与え給うたもの
翼に乗って僕は運ばれる
いかなる時もどんな場所でも僕にとって重要じゃないものを目指して
それ以外のすべての値打ちのある何かを目指して
僕の中には特別な何かがあるんだ
世界すべてが切望に包まれる
僕はそういう存在なんだ、僕は音楽そのもの
- 「Wunder奇跡」=英語のwonder。
- 「kommen起こる」は、近づいてくる、やってくる、来るというニュアンス。
- 4行目「Kraft力」は「力、能力、エネルギー」の意味合い。権力的な意味合いの力ではない。自然的な力のニュアンス。
それに そうじゃなくちゃ
僕の人生は間違ったものになった
僕は欠片も詩人じゃない
詩情に乗せて話すことなんてできない
シンプルにしゃべるだけさ、気持ちのままに
何かに心動かされて、僕の口から飛び出していくんだ
それと同じで 僕は欠片も絵描きじゃない
落ちる影と光 その色彩と共に
繰り返し 現実をより良くして絵にして描いてしまう(なんてことは)
僕はいつか ただ夢見た僕の希望を外に出すだけ
僕は欠片も役者でもない
騙し偽ることなんて僕にはできない
いつだってありのままの人間であったのを見てきた
どうしたら僕の中でそんな僕自身を分けられるものか
そう つまり僕は期待することができるだけ
何もかも理屈抜きでただ掴み取るっていうことさ
ありのままの僕で
僕は長調《メジャー》であり短調《マイナー》
和音《コード》であり旋律《メロディー》
言葉から出るあらゆる音調《トーン》
そして 発話から出るあらゆる音響《サウンド》
それらを備え 感じるままに僕はおしゃべりをするんだ
僕は拍子《タクト》であり休止符
不協和音《ディスコード》であり調和《ハーモニー》
そして 強音《フォルテ》であり弱音《ピアノ》
舞踏《ダンス》であり幻想曲《ファンタジー》
僕はそういう存在なんだ、僕は音楽そのもの
僕は長調《メジャー》であり短調《マイナー》
和音《コード》であり旋律《メロディー》
言葉から出るあらゆる音調《トーン》
そして 発話から出るあらゆる音響《サウンド》
それらを備え 感じるままに僕はおしゃべりをするんだ
僕は拍子《タクト》であり休止符
不協和音《ディスコード》であり調和《ハーモニー》
そして 強音《フォルテ》であり弱音《ピアノ》
舞踏《ダンス》であり幻想曲《ファンタジー》
闇であり光 それに 狼であり羊
そして 稲妻であり交響曲《シンフォニー》
思慮深くて間抜け それに 好色で生真面目
一人の人間であり一人の天才
僕はそういう存在なんだ、僕は音楽そのもの
そうして 僕は望んでいるんだ、人々が僕のことをとても愛してくれることを
僕はそういう存在なのに
Schließ dein Herz in Eisen ein(心を鉄に閉じ込めて)
私の憂慮は身震いし 落ち着きがない
おまえは今 どこで過ごしているのか 健やかに過ごせているのだろうか?
私は自分を憎んだよ。おまえを責め咎めて別れたことを
決して己を許すことはないだろう
まだまだ未熟者で、不注意な放浪ゆえに見境もない
おまえは私にとってはいつまでも子供のまま在り続ける
か弱くて傷つきやすく、かけがえのない
おまえのことに考えがめぐれば 私には不安がつきまとうのだ
- 1行目「blind für Gefahren不注意な放浪ゆえに見境もない」は、「blind目が見えない、見境がない」、「Gefahrenへたな〈不注意な〉運転」。過去分詞としてのgefarenには、「走った、乗って行った、飛び出した、放浪した」などの意味もある。
- 4行目はやや意訳。直訳ならば「私はおまえに関しては不安を持っている」。「Angst不安、恐怖、重苦しい気分」なので、レオポルトの息子の幸先を思いやる気持ちがにじみ出ている。
この世界は堕落に満ちている
何もかもがおまえを脅かすのだ
嘘、裏切りや欺瞞が
「Fallen落下、堕落、斃死」
鉄でおまえの心を閉じ込めてやればいい
手際よく抜け目もなく そうなる術を身に着けるのだ
そして 蛇のような女から優しさを向けられても決して信じるな
(言葉をすぐ)口に出すな、おまえの怒りのままに
意志を屈服させろ、(命令や助言には)従え
私がいつだっておまえを誇りに思えるようになってくれ
- 「Eisen鉄」は「手枷」の意味を含む。
- 5行目「wo sich's gehör(t命令や助言には)従え」はやや意訳した。「命令や助言」は言葉には出ていないが、言外で言われているものだとして、このようにした。
人生の歳月を私は無駄にしてきた
私に対して運命はこうなった
おまえは(運命に)打ち克ち うまくやれるよ
私は絶えず おまえ(のそのきたるべき時に)期待しよう
2行目「Schicksal運命」は、「神の摂理、(逃れられぬ)運命」。
この世界は口先だけのものに満ちている
寄生虫と偽善者
運命と優れた才能には 妬みが満ちて押し寄せるものなのだ
鉄でおまえの心を閉じ込めてやればいい
偉大な人物を前にして己を取り繕って卑小になり
そして 抜け目のないネズミと化して憐れむことなど決してするな
ただ(運命を)掴み取るのだ、おまえを導いたものを
そして おまえを誘惑するものなど忘れるのだ
なぜならば この世界はすべて 邪悪な者たちで満ちているのだから
- 2行目、もしくは、「取るに足らない大人を前にしてうわべを取り繕い」(多分、上記翻訳文で正しいと思うが)? 3行目の「決してするな」が2行目にもかかっているものとして読んだが、割とどちらにでも読める。文が区切られる場合は2行目は命令形の文章になる。または、2行目のような「抜け目のないネズミ」を決して憐れむ(同情するな)の意だと思う。
- 6行目「Teufeln邪悪な者たち」は、「悪魔たち、悪魔的なふるまい、荒れ狂う、暴れる、呪う、罵る」というニュアンスを含む。
我が息子よ、強くなるよう励むんだよ
鉄でおまえの心を閉じ込めてしまうんだ
Lieben muss man mich doch / Niemand applaudiert(母の死)
[ヴォルフガング]
7時だ これ以上は来なかった
7時だ 良さそうな反応をしてる人はいない
それなのに僕は連中に取り囲まれている、音楽を通して
それを得てしまったんだ
嘆いたり、弱気になったりなんてするな
パリでだってみんなそれを学んでいくんだ、
みんな僕を愛してくれなくちゃ駄目なんだよ そうだろ!
(セリフ)調子はどう、ママ?
[アンナ・マリア(セリフ)]
大丈夫よ、ヴォルファル
[ヴォルフガング]
たった4人だけ 嘲笑があるだけだ
今じゃ4人 シンプルなものだよ
なのに僕の一日はさっさと追い立ててくる
みんな 僕の音楽が好きだから!
恨んだり、ふてくされたりなんてしないよ
僕はみじめで出来の悪い奴なんかじゃないし、まだまだもっとできる奴なんだ!
ここでの重圧さえやり過ごせれば
取るに足らない何者でもない人間に、拍手は送られなかった
僕は見て見ぬふりをされたんだ
たくさんのことに気付けたよ 遅すぎたけれど
みんなは僕の音楽を拒んでるんだって
1行目、「有象無象たちは拍手をしなかった」とも読める。
[セリフ]
どうしたの、ママ
ママ?
ママ?!
ママ!
ああ、神さま、いや《nein》だよ……!
1行目、「どうしたのLass uns gehen」は、普通に読むと「行こうか」という意味合いの言葉。「もうここから去ろうか」というニュアンスもやや感じるかも?
この歌詞の最初のほうの「調子はどう、ママ?Wie geht es dir, Mama?」 「大丈夫よ、ヴォルファルEs geht schon, Wolferl 」と対応。「gehen」は「出る、去る」とかそのへんの意味合い。「Wie geht es...」は、通常、慣用句的に「調子はどうですか」と読まれるが、直訳すると「出かけませんか」という意味合いが近い。「Es geht schon」も「調子はどう?」の訳に応える形で訳したが、直訳すれば「もう行くのかい?(もう終わったの?)」の意味になる。
Was für ein grausames Leben(残酷な人生)
[ヴォルフガング]
(セリフ)
そうやってみんな先へ歩いていって置いていくんだ……
いつだって 何も起きなかったみたいに……
風が蝋燭を吹き消して
そうして夜の闇をより暗くさせるように
それでも酒場では賽子が転がっているし
劇場じゃゲラゲラと笑い声が響いてる
待ちぼうけの御者のあくび
それに塔の中から零れ落ちてくる時を報せる音
噴き出る水で泉ができるし
恋に恋して夢中になってる人たちがいる
- 2行目の「 時を報せる音schlägt die Uhr」は、正確に訳せば「時計の拍(拍動)」だが、ここでは分かりやすさを取った。
- 3,4行目は原文はとにかく類似の言葉をひたすら並べている箇所になっている。そのため、「泉から噴き出た水でまた泉ができて、恋することで恋が生まれる」というような歌詞になっているが、上記同様、分かりやすさを優先して訳した。
どこかでひとりの子供がおかしくなって
どこかでいつかは呪いにかけられたみたいになってしまう
その心臓はなめされた皮の表面みたいにザラザラに荒らされていって、魂は染みで汚れていくんだ
苦しみと悲しみに押し潰されて そんなおはなしの終わりに至るまで
- 「geboren異常なふるまいになった」「beschworen呪文で意のままにする、呼び覚ます、誓って保証する、懇願する」
- 2行目は、(おかしくなった子供は)いつかは挙句の果てには懇願するほどみじめになる、の意味もあるかと思う。
- 「Narbenなめした皮の表面のツブツブ(銀面)」「Fleckenしみをつける」。Fleckenは方言で「継ぎを当てる」といった意味合いもあるので、心がちぐはぐに繕われていくという意味もあるのかも。
- 「Schluss結末、大詰め、終わり、結論」「Schmerzen痛む、~にとって痛い、苦痛を与える、悲しませる」。他の曲では「ende終わり」が好んで使われている印象だが、ここではこの言葉が選ばれている。多分、Schmerzenと掛けてるのかもしれない。
何のためにある残酷な人生なんだろう!
どうして世界はこんなにおかしなほうへいくんだろう!
どうせ人間は愚かさの闇の大海へと転がり落ちて死んでしまうのに
何を目指して僕たちは期待されて希望を与えられたのだろう?
- 「Leben生、生命、命、人生、世の中」「Hoffnung希望、信頼、期待できる人物」。人から期待を押し付けられ、自分もまた希望を抱いたというふうにここでは理解した。
- 「Dunkelheit闇、あいまいさ、暗愚、無知」。単純に闇というよりは「愚か」を付けたほうが良いだろうと判断。
- 冒頭「Was für」も「何を目指して」の意味で読めるし、そういう意図もあるのだろうが、日本語訳では後半2行を際立たせるため、上記のように訳した。
- この4行では大海に浮かびどこかへ向かうらしいひとつの船(舟)が想定されていると思って読んだらよいと思う。
まだあなたが呼吸しているような気がする
あなたには期待と支えを与えられていた
あなたは温かな優しさに溢れた命があった
なのに 今じゃもう沈黙し 火は消えてしまった
- 「Wärme熱、温かさ、熱意、親切さ」と「kalt寒い、火の消えた、冷たくなった、冷淡な、無情な」が対応している。
- duは要はyouの意味合いがあるが、不特定多数の世間の人々も指すこともできるので、この箇所は、世界から見放されたという気持ちでも読める。(まだおまえは息をしているのか 期待と支えを与えられ、豊かな生があったはずなのに、今じゃもうこのざまなのか、みたいな)
信じて祈ろう、大声で泣いたりなんてしないようにしながら取り囲んで
残酷な運命に襲われても、神罰が落ちようとも、掴み取りに行ったものをうっかり踏んで駄目にしまっても、歩んだ道を誤って不幸に見舞われても、そうして傷だらけでぼこぼこになろうとも
黄金に輝く留め金と たぶん素敵なはずのものとをなんとしてでも運ぶために
それがもうただの骸骨だったとしても
- 「glauben思う、信じる、信仰をもつ」「beten祈る、祈祷する」なので、1行目はかなり神が意識されている箇所でもある。
- 2行目はとにかく意図されてるだろう意味合いを詰め込みまくった。
「schlagen打つ、叩く、激しく動かす、神罰がくだる、過酷な運命が襲う」「treten歩み出る、進む、うっかり踏み込む、けとばす」「holen取りに行く、努力して手に入れる、身に招く、こうむる」「 Beulenしわ、こぶ、腫脹、へこみになる」 - 3行目はかなり意訳した。
「留め金spangen」は手錠の意味もあるため、黄金に輝いてはいるが自分を苦しませ拘束するものでもある。「tragen運ぶ、運び去る、支える、負担する、苦痛に耐える」「goldene黄金の+Spangen留め金(手錠の意味もある)」
また、Puderzöpfe(Puder+zöpfe)は乙女を連想させもするが、髪粉と古臭い考えという、格式ばっているだけの形骸化したもの(=負担になるもの)というものも連想できると思われるため、翻訳ではこのようにした。「Puderzöpfeおしろいとおさげ髪、髪粉と古臭い考え」 - つまり、2、3行目でひたすら苦しみを背負っている感じを歌っているのだと解釈している。
- また、ここでの主語は「Wir(=英語でいうところのwe)」であるため、アマデウスが母の霊を弔う描写であり、なおかつ、この残酷な人生を歩くしかない世界に生まれた人々が父(=神)に歯を食いしばりながら祈っているような描写でにもなっているのだと思われる。ひたすらに苦しんで何かを背負い続け、祈り続けたところで、背にあるのがただの骸骨だとしても。
何のためにある残酷な人生なんだろう!
どうして世界はこんなにおかしなほうへいくんだろう!
幸せになれるって信じて 誰もが幸運に賭けているんだ
そうしてみんな騙され 誤魔化されてきた
まるで方向性のない馬鹿げた問いかけたち
そんなことをする奴に一度だって答えが与えられるはずもなく 罰さえ与えられもしない!
おまえは信じているんだ、どこかには好意があるはずだと
でも結局は孤独があるだけ
- 後半2行は母に対して以下のように語るようにも読めるかと思う。 「あなたは信じていたんだ、どこかできっと愛は報いると それなのに最後はたった独りだった」みたいな。
- 2行目は意訳。「erhält守る、受ける、与えられる、罰を受ける」
そうして学んでいくんだ、間抜けな奴になるまでアンコールがあるから
そうしておしゃべりしていくんだ、口がきけなくなるまで延々と
そうしてひたすら貪っていくんだ、吐き戻すまでひたすらに
ここもwir(=we)なので、自分自身だけでなく我々という広い意味もある
何のためにある残酷な人生なんだろう!
どうして世界はこんなにおかしなほうへいくんだろう!
幸せになれるって信じて 誰もが幸運に賭けているんだ
そうしてみんな騙され 誤魔化されてきた
まるで方向性のない馬鹿げた問いかけたち
そんなことをする奴に一度だって答えが与えられるはずもなく 罰さえ与えられもしない!
おまえは信じているんだ、どこかには好意があるはずだと
まずはじめに絶望が詰まった箱があるのに
おまえはそれを覗き見ようともしない
結局は孤独があるだけなのに
4、5行目は「まっ先に絶望で叫んでしまいたいのに、そういう自分自身を誤魔化していく」あたりの意味合いもあると思われる。
ただいまいましい寂しさがあるだけ
結局はくそったれな孤独しかないんだ!
Gold von den Sternen(星から降る金)
[ヴァルトシュテッテン男爵夫人]
(セリフ)私はあなたに(私が)好きな昔話を物語りましょう。
「Geschichte歴史、物語」
あるところに昔 ひとりの王さまがいました
彼は息子と一緒に住んでいたの
錠を下ろし 閉じこもってね
その魔法の園の中で暮らし続けていたのよ
「Zaubergarten魔法の園、魔法をかけられた庭園=この世のものとも思えないほど美しい庭」
そして その暮らしのためにこの老いた王さまは
この世界の外には裏切りがあったからと
とても高い城壁を築いたの
それで その門はずっと開くことはなかったのよ
4行目「das Tor immer zugesperrtその門はずっと開くことはなかったのよ」は、「その世間知らずの息子はずっと閉じ込められたままだったの」とも読める。「zugesperrt=zugehen歩み寄る、達する、閉まる、~の形で終わる+sperren閉鎖する、閉じ込める」。「Tor愚か者、世間知らず/門」
「おまえに言っておくが、」王さまは言った
「この場所よりも良い場所などどこにもないぞ」
でも 切望が王子さまに言うの
「おまえはここから先へ行かねばならない!」
「Sehnsucht切望」は「憧れ、ノスタルジア」なども含む語。
時折 夜には 星たちから黄金が降ってくる
あなたはその黄金を見つけることができるのよ、その園から遠く離れた場所でなら
どうしてまだひとつの争いもない場所にいるのかしら
存在を確立する必要があるの、生を習う必要があるの
その時 あなたは星から落ちる黄金を探し求める
あなたはひとりぼっちで危険のある外へと行かなければいけないのよ
「この園から遠く離れた場所ではおまえは破滅するぞ」
父親(王)は息子にそう語り聞かせたわ
「私は厳しくこの場所を守っている
ゆえに 我々はこの魔法の園の中で死ぬまで留まっていれば良いのだ」
「私は平穏を与えよう
ただおまえを庇護し 囲い込むだけだ
とても高い城壁を築き
そして この門を永遠に開きはしない」
王さまには愛情があったのよ
どの言葉も息子への愛から出ていたの
でも 切望が王子さまに言うわ
「おまえはここから先へ行かねばならない」
2行目「Sprach aus jedem Wort」は単純に「すべての言葉から出て話していた」だが、分かりにくいので意訳した。
この世界の余白が 星たちから黄金を降らせる
そして その黄金を見出すのよ、手はもう届くわ
届かなかったことは過去になるから
存在を確立する必要があるの、生を習う必要があるの
その時 あなたは星から落ちる黄金を探し求める
あなたはひとりぼっちで危険のある外へと行かなければいけないのよ
愛とは 時には解放することもできること
愛とは 時には愛する者を自分から引き離せること
愛とは これが己にふさわしい幸福であるかを問うことではないわ
愛とは 涙は告げる言葉の下に隠すこと そういう意味があるの
ここから遠いところへ星たちから黄金が降ってくる
あなたはその黄金を見つけることができるのよ、その園から遠く離れた場所でなら
どうしてまだひとつの争いもない場所にいるのかしら
存在を確立する必要があるの、生を習う必要があるの
その時 あなたは星から落ちる黄金を探し求める
あなたは家族から離れなければならないの
そして ただあなたは目指し行くだけ
ひとりぼっちで危険に満ちたこの世界の中へと行くのよ
2020/05/24:投稿時に1行目を誤訳していたため、「ここから世界へ」を「ここから遠いところへ」に修正しました
危険に満ちたこの世界の中へと!
Wie wird man seinen Schatten los?(影を逃れて)
[ヴォルフガング]
王侯貴族の寵愛を受けようとするのは僕は諦めるよ
それに髪粉をした巻き毛を目指すことだってもうやめる
塵埃の黴臭さと乳香の香り
これ以上 僕を満足させるものはないから
本当の人生 僕はその跡を追いたいんだ
それは 厚くて赤い唇
それは 僕を誘う葡萄酒の香りと夜闇の中でも温めてくれるもの
それは 囁き 涙を浮かべ 笑いもする
- 「spür'n感じる、気付く、猟犬が野獣のにおいのあとを追う」
- 1行目は普通「僕は本当の人生というものを感じたい」あたりの意味合いだろうが、「Wie wird man seinen Schatten losどうしたらあの影から逃れて存在できる」と対応させたほうがおもしろいかなと思い、このようにした。
モツは自分が夢見ている「本当の人生」を追おうとし、影はさらにモツを追う。また、塵埃のにおいや乳香の香り、葡萄酒の香りと、「におい」を意識した歌詞になっているため、「においを追う」というニュアンスも含めたかった。 - 「wärmt温かい、心の癒し、親切」
これはただの問いかけ:
どうしたらあの影から逃れて存在できる?
どうしたらあの運命に「いやだ《Nein》」って伝えることができる?
おまえは自分の殻から這い出ることができるのか?
それで 今さら別の何者かになれるとでも?
- 「Schicksal神の摂理、宿命、運命」。神の子アマデウスの運命は神によって定められたものであることがにおわされつつ歌われている。
- 「Hautは皮膚・皮」の意。ここでは分かりやすく殻とした(ちなみに日本版ミュージカルもこの箇所にあたる部分が「殻」という言葉で訳されている)。本来はもっと生々しく、これまで自分が生きるのに使ってきたマスク、自分を形作る肉体の外面を意味する。
- 3行目は本来は「どうしたらお前を形作った表皮から這い出せるのか」とかそのへんの訳になる。
4行目も意訳。普通に読めば、「どうしたらいつか今とは別の存在になることができるのだろう」。この訳では、もっと責めるような省察の意味合いを込めた。 - また、この4行での主語は「man(その人、人々)」で限定的なものではない。
自問しても解決できないのなら
誰に訊けばいい?
影から絶対に逃れられないのなら
どうしたら自由になんてなれるのだろうか?
- ここも主語はman
僕に不死をもたらす運命なんて それがなんだっていうのさ!
死を前にして僕は生を望んでいる
月桂樹の霊廟の墓のにおい
もう僕をこれ以上ぼんやりさせないでくれ
どうしたら このとても美しいシンフォニーを
胸のうちから消してしまえるのだろう?
これまでヴァイオリンの音色は まるで髪の中に手を差し伸べた時のように
そんなふうに優しくは響かなかったんだ
これはただの問いかけ:
どうしたらあの影から逃れて存在できる?
どうしたら追いかけてくるあらゆるものから離れられる?
どうしたら良心を追い立てて無くしてしまうことができる?
どうしたら自分を形作るものの前から逃げ出せる?
- 4行目の「dem eig'nen ich」は「自分自身にぴったりと見合ったもの、自分自身そのもの」みたいな意味合い。
- fliehtは「敗走する」など、負けて逃げる意味合い。
- ここもすべて主語はman。
どうしたらどの道にも立っている自分自身から
逃げることができる?
自分自身の影から絶対に逃げられない存在であるのなら
どうしたら自由になんてられるのか?
- ここもすべて主語はman。
- 1行目に訳出した「steht立っている」は、そこに変わることなくしっかりと留まっているというニュアンスがある。
- 2行目に訳出した「flüchten逃れる」は、上記同様、負けて得る意味合いの『逃げる」。
- 3行目の「entgeht逃げる」はflüchtenとは異なる「逃げる」。
不安の重圧が、僕から呼吸を奪うんだ
[アンサンブル]
おまえのすぐ隣に悪魔が立っているぞ
ここの「立つ」も上記と同様「steht」。
[ヴォルフガング]
肩に乗っかった鉛みたいだ
[アンサンブル]
少年の姿をして
[ヴォルフガング]
沈黙して。僕の問いかけには答えずに突っ立っているだけ
[アンサンブル]
独りぼっちで仕えなければならぬ当為がある
意訳で「sollst~しなくてはならない立場である」を哲学用語のゾーレン(当為)と掛け合わせた。
[ヴォルフガング]
そうやって 僕のなぜに対して一つだって答えを与えてくれない
「Warumなぜということ、理由,原因」
[アンサンブル]
おまえの存在は影に望まれたもの
ただ影のためだけにおまえは生まれてしまったから孤独な存在になったのだ
原文では「影」とはっきりとは言わず、「er(=it/he)」。
[ヴォルフガング]
目に見えない視線が
[アンサンブル]
おまえの後ろに悪魔が立っているぞ
[ヴォルフガング]
息が詰まる
[アンサンブル]
少年の姿をして
[ヴォルフガング]
影が僕を追い 覆ってくる
僕が思うに、いつか
あいつに殺されるんだ
- 「glaub'思う」はbelieveと同義であるため、「信じる、本当だと思う」という意味合いがある。
- 「いつか」と訳した「eines Tages」のTagesはdayと同義。また、日中、昼、日の光を含んだ言葉であるため、キーワードとなっている「影」が際立つと思う。
- 「あいつに殺される」の部分はBringt er mich noch um。「eines Tages」と合わせ、「いつかの日の光が彼を僕へと運ぶ/日の光がいまだに僕を取り囲んで彼を連れてくる」とかの意味合いかなと思う。光によって影に追われ、影が大きくなる様子がある箇所なのだろう。そしてヴォルフガングはそれを「信じている」のである。日本語版ミュージカル同様、ここでは分かりやすく「殺される」とした。
[アンサンブル]
朝も夜も影はおまえと共にあるぞ
「朝」とした所は原文では「Tag」なので、厳密には昼や日中を指す。朝と夜は、光と闇のニュアンスも含む。
[全員で]
どうしたらあの影から逃れて存在できる?
どうしたらあの運命に「いやだ《Nein》」って伝えることができる?
[アンサンブル]
おまえは自分の殻から這い出ることができるのか?
それで 今さら別の何者かになれるとでも?
[全員で]
自問しても解決できないのなら
誰に訊けばいい?
自分自身の影から絶対に逃げられない存在であるのなら
どうしたら自由になんてられるのか?
[アンサンブル]
どうしたらあの影から逃れて存在できる?
[ヴォルフガング]
どうしたら僕は生きられるのか
[アンサンブル]
どうしたら追いかけてくるあらゆるものから離れられる?
[ヴォルフガング]
僕がただこの運命だけに身を尽くすだけなら?
ここの「運命」も原文は先述した「Schicksal」なので、神の摂理や神意のニュアンスも含む逃れ得ぬ運命を指す。
[アンサンブル]
どうしたら良心を追い立てて無くしてしまうことができる?
どうしたら自分を形作るものの前から逃げ出せる?
どうしたら逃れられるんだ
[ヴォルフガング]
僕にはできない、絶対にできないんだろ
[アンサンブル]
どの道にも立っている自分自身にどうしたらいいかだと?
自分の運命を前にしておまえが逃れられるわけがないのに!
ここの「運命」も「Schicksal」。歌の最後なので、思い切って「お前に与えられた神意」としても良いかもしれないかなあとは思った。神の子(=アマデウス)の受ける呪い。
[ヴォルフガング]
絶対に、絶対に何があっても自分の影から逃げ出せないのか?
ここでの「影」は原文で「eignen Schatten」。「逃げる」も「flüchten」と同様の「flieh'n」。どちらも前述。
Act.2
Irgendwo wird immer getanzt(ダンスはやめられない)
神さま、昨日はまた遅くなっちゃった
それでも 家に真っ先に向かったのよ
日を跨ぐ前には帰らなかったけれど。不健康な時間に目覚めるのだもの
ぎらつく光が出ている時には 外に出て動けないから
ああ 神さま! 誰がこの混沌に立ち向かって片付けるのでしょうね?
それでもやらないのよ、誰かのためにまだ何かを見出すことができても
主婦のためにその仕事に耳を貸すようなことは一度だってなかった
一番良いのは、私が主婦の仕事を絶対に何一つ始めず 受け入れないこと
- 1行目「O Gott! Wer räumt dieses Chaos auf?」と、神と混沌(カオス)の言葉を並べて嫌味を言っている。上記の「(私の)神さまMein Gott」といい、神の子たるアマデウスを意識している面もあるのだろう。
- 3行目は「主婦を目指してその仕事を~」とも読めるので、モーツァルトへの当てつけと、自分自身も主婦になろうとしなかったことの二つを言っている? 翻訳文のほうはどちらとも取れないような曖昧な感じになった。2行目も同じようにモーツァルトへの当てつけでもあり、自分の怠惰を語ってもいるのではないかと思う。ちなみにどちらも主語は曖昧。
- ここではとにかく主語を曖昧にして、モーツァルトへの不満と自身の怠慢が語られている。
そういうのも あそこにいる私の夫は芸術家だから
私はあの人に刺激を与えなくちゃいけないのだもの
それだから 暗くなったらあの人から遠く離れるの
私は変わらずにまた楽しんでなくちゃいけないのだもの
2行目「inspirier'n刺激」は要は「インスピレーション」。「刺激を与える、着想を与える、考えを吹き込む」。
どこかしらでいつも踊っていたわ
そうしてこうなっちゃったけど 気の毒なものでしょ、楽しみを逃すのは
私は 喜んで生き、喜んで与え
喜んで夢の上で揺蕩うのよ
この血の中にあるシャンパンと共に
それに 紙でできた薔薇を髪に挿して
2行目「 Spaß楽しみ」は「冗談、楽しみ、慰み、おどけ」。「versäumen逃す」は「逃す、怠る、空費する」。ダンスで己を慰めることへの固執とその虚しさを歌っているのだと思われる。
私は 子供のころからずっと とっても慎ましくやってたのよ
いつだって自分を前へと押し出しはしなかった
いつだって脚光の中に立つことを望まなかった
そういうのも 習うことも練習するのも
私をめちゃくちゃ疲れさせるものだったから
それに 苦労なんてしたくなかったもの
5行目「angestrengt(過去分詞)極度に緊張した、疲れた」、6行目「Anstrengung努力、苦労、緊張」。努力なんてしたくなかった。緊張するもの、疲れるもので、このへんつながりがある歌詞になっている。
私の母親の考えでは、私はいつかそのうち救貧院に辿り着くんですって
それで私は母さんに言ったわ。「私にはどうでもいいことだわ」
父さんには警告されたの、私の行く末は暗くなるって
私は言ったわ。「そんな未来がそのうち来たって構わないわ!」
- 1行目「辿り着くlande」は「上陸する、着地する」などの意味の言葉。「im Armenhaus」で「救貧院の中へ」なので、厳密にはここは「救貧院の中に上陸/着地する」。彷徨った末にたまたま着くというよりも、真っすぐそこへ行っているのだというニュアンスがあると思われる。
- 4行目「Zukunft来るべき時代、前途、行く末、未来」「prophezeihte予言(警告)する」
私の姉には主張されたの、私は彼女(姉)のようになれたって
普通じゃなくて、才能があってお利口で
私は拍手喝采のオペラ劇場に立つことができたって
でも 残念だけどそんな時間はないのよ
4行目「dazu fehlt mir leider die Zeit残念だけどそんな時間はないの」。「 fehlt足を踏み外す、足を滑らせる、過ちを犯す」。暗に「私は足を滑らせてその道から逸れちゃった」ということも言い含んでいると思われる。
そういうのも どこかしらでいつも踊っていたから
そうしてこうなっちゃったけど 気の毒なものでしょ、幸運を逃すのは
私は 喜んで与え、喜んで漂い去り
喜んで物語を体験するのよ
このグラスの中にあるシャンパンと共に
それに 髪でできた薔薇を……
- 2行目「Glück幸運」は「幸運(の女神)、幸福」。瞬間的な幸せに浸ってきたって意味だと思う。
- 3行目「entschweb'漂い去り」は「漂い去る、流れ去る、世を去る」。前述の「喜んで夢の上で揺蕩うのよ」の「揺蕩う」を踏まえているのだと思う。暗に、夢に揺蕩ったまま死ぬことを意図しているのだと思う。
- 4行目「Erleb体験する、身をもって知る、生きて迎える」「Geschichten歴史、物語、作り話、出来事」。「その出来事を身をもって知る」「その歴史を体験する」あたりの意味を含む文だと思う。
それに 私の夫はやるべきなのよ、神がどれだけ(不幸を)防ごうとしても
(新しい)一日はもうないわ
そういうのも 私は私のやり方で彼を悼むことにしているから
信じてもらわなくてもいいわ、私が墓のそばに立って泣くなんて!
- 1行目「sollte mein Mann私の夫はやるべきなのよ」の「sollte」は要は英語の「shall」に当たる。「私の夫は(それを)するのが当然である/しなければならない、すべきなのに」あたりの意味。もしくは、「神が(不幸を)防ぐことを夫もするべき」あたりの意味? 不明。
- 2行目「Eines Tages nicht mehr sein(新しい)一日はもうない」の「Tages」は、「昼、24時間(1日)、日光、光、ライト」であるため、「日の光はもうこれ以上はない/ライトはこれ以上はない/光はこれ以上ない」などの意味も含んでいる。
- 3行目「trau're ich um ihn auf meine Art私は私のやり方で彼を悼むことにしているから」の「trau're」は「Trauer悲しみ、悲痛、服喪」の意味で訳したが、多分、「trauen信頼する、結婚する」ともかかっているのかもしれない。ので、「私は私のやり方で彼を信じることにしているの」という意味も含んでいるのだろう。そしてこの「信じる」は次の4行目の「Glaubt~と思う、信じる、信頼する」にもかかるのではないかと思う。
- 4行目は「私が墓のそばに立ち涙を流すなんて思わないで!/信じられる(そう思われる)なんてとんでもない、私が~/単に信じられないだけ、私が~」あたりの意味。
- ここはこの曲の最初の「ぎらつく光が出ている時には 外に出て動けないから」あたりともかかっていると思われる。毎晩遊びに出かけることの理由(詭弁ともいえる)をここで語っている。
そういうのも どこかしらでいつも踊っていたから
そうしてこうなっちゃったけど 気の毒なものでしょ、楽しみを逃すのは
私は 喜んで生き、喜んで与え
喜んで夢の上で揺蕩うのよ
この血の中にあるシャンパンと共に
それに 紙でできた薔薇を髪に挿して
こうなっちゃったけど 気の毒なものでしょ、楽しみを逃すのは
いつだってそうするし、そうしてきたのよ!
Wie kann es möglich sein?(神よ、何故許される)
私は己の人生を本の浪費に費やしてきた
神について識り この世界の神羅万象を理解しようとしてきた
私はこの自然というものを研究し解明してきたのだ
その背後にあるものを見るために
3行目の「Natur自然」には「造物主」の意味もある。4行目も暗に「神」について言っている。この4行はとにかく神と神が造り給うたこの世界への執念が歌われている。
だが ゆっくりとはっきりしてきた
己が愚か者であることが見えてきたのだ
ぐるぐると円を描き続けているだけの
我が神よ、私は終わった存在なのだ
私のギリシア語とラテン語の知識と共に
思考は壁に向かって走っていたと
認めよう、認めるとも私はそんな男ではないと
3行目「 Verstand思考」は、「思考力、理性」。
いかにしてそれを可能なものへ為し給うのか
公正なる神よ?
私は考えた、どのように我々は先へ進むのかを
洞察し 批評し
いかにしてそれを為そうかと
思考することで
この世界を照らし出すべきなのだと
人智を超えた魔法となった音楽に打ち克つことはできるのだろうか?
コロラドの言う「思考」などそれに準ずる言葉は「理性」を伴うもの。彼は理性によってすべてが理解できると、神はそれを望んでいるのだと思っていたということがうかがえる。
[アルコ伯爵(セリフ)]
レオポルト・モーツァルトです、殿下
[コロラド(セリフ)]
彼(息子)はウィーンのほうへ向かったのだったか?
[レオポルト(セリフ)]
まさしくその通りでございます、猊下。私は何年も息子に会っておりません。
[コロラド(セリフ)]
ザルツブルグへと引き返すように彼を呼んでくるのだ あなたが
私は彼の非礼を許そう
[レオポルト(セリフ)]
私が……恩赦に感謝いたします!
我々はあなたの慈悲を受けるに相応しくないというのに、殿下
[コロラド(セリフ)]
慈悲は収入のために心を煩わせたりはしないものだ
[レオポルト(セリフ)]
ご心配せずとも、殿下
彼(息子)が戻ってくることはないでしょう。遺憾ながらもあいつはいささか頑固ですから──
私はあなたに新たな奇跡の子をお見せできます
我が孫 レオポルトを!
[レオポルト(セリフ)]
ヴォルフガング同様に──私の肉と血を持つ子です
それに 劣らぬ才能を持ち育ちました
[コロラド(セリフ)]
彼はウィーンへ行くような立場にはない。それに私はモーツァルトを連れ戻してこいと言っているのだ。
[レオポルト(セリフ)]
私は一度天才を創り出しました
いつだってまた創ることができます!
[コロラド]
(セリフ)話は終わりだ! 私は本物のモーツァルトが欲しいのだから! アルコ!
「Schluss話は終わりだ」は「終了、結末、大詰め、結論」という意味合いの終わり。
ああ、そうだ、衆人であれば誰でも分からせて 躾けることができる
ただの人間であるならば それどころか猿の如く物真似をするような者でさえも
人間は一つの種であるのだから、ならば彼は花を咲かせるしかないはずなのだ
人である我々は急いで彼を育てる必要がある
いくら私に対して相変わらず意固地になろうとも
奇跡ならば私も起こすことはできる
無視することなどできはしまい
我が神よ、あなたはご存知のはずだ、私が行ってきたことを
私は私の責務を決して自堕落には行わなかった
しかし 私を嘲った者だけが
理想に到達できたのだ
いかにしてそれを可能なものへ為し給うのか
公正なる神よ?
私は考えた、どのように我々は先へ進むのかを
洞察し 批評し
いかにしてそれを為そうかと
思考することで
この世界を照らし出すべきなのだと
人智を超えた魔法となった音楽に打ち克つことはできるのだろうか?
いかにしてそれを為そうかと
思考することで
この世界を照らし出すべきなのだと
どうすれば乗り越えることができるのか 私の下を飛び去った者から
あの追放された、無作法な
手の付けようのないほど怠惰で、強情な
子供じみた威張り屋の悪党
そして人智を超えた魔法となった音楽からは?
Wer ist wer? / Mummenschan(誰が誰)
[アンサンブル]
誰が誰になっているんだ?
誰が何のつもりで歩いているのか?
この大いなる仮装舞踏会
神が催したようなすばらしい冗談(のような世界)
4行目は意味が重層している。上記もだいぶ詰め込んだ。他にも、「神が催したようなすばらしい慰め(楽しみ)(のような世界)」「ひどい冗談(慰め)(のような世界)」など。「göttlicher神の如き、(比喩で)すばらしい、(左記からの転義で)ひどい、おかしな」「Spaß冗談、楽しみ、慰め」。ちなみにコンスタンツェの『ダンスはやめられない』歌詞中でも「Spaß」は再三繰り返される言葉でもある。
戯れみたいな嘲弄
舞踏みたいな人生
なにもかもが劇場
すべてが仮面舞踏会
2行目「Talmiメッキ」は「メッキした黄銅」を意味し、転義的に「無価値なもの、まがいもの」を指し、「Glanz輝き」は「輝き、きらめき、光沢」を意味し、転義的に「輝かしさ、華やかさ、壮麗さ、栄光」を指す。つまり、ここでも表面だけ立派で中身は何もないことを言っている。
全く何一つありもしない建物
信頼し、誰に目を向けるのか
ジョークとうわべ
誰がその中を目指して落ちるのか?
この大いなる仮装舞踏会
(だらだら歩くような)すり足の踊りと(さまざまな)叫び声
- 3行目「Scheinうわべ」は、「光」「(哲学用語の)仮象」を意味することばでもある。
- 4行目は「誰が穢れなきものを目指して落ちるものか?」とも読める。
侮蔑みたいな賞賛
輝きみたいなメッキ
なにもかもが劇場
すべてが仮面舞踏会
はっきりしたものは何一つありはしない
正しいものなど何一つありはしない
2行目の「Wahr正しい」は「本当の、誠実な、本物の」なども含む。
[レオポルト]
私はおまえにそれを与え
おまえは私からそれを受け取った
おまえはそれを反抗心ゆえに壊してしまった
いまや おまえは絶対にそれを取り戻せなくなったのだ
(それでも)ふたたび与えるため、
幸せとは何であるのかについて語り聞かせよう!
6行目「Glück幸せ」は「幸運(の女神)、幸福、幸せ」の意。
[ヴォルフガング]
父さん! 戻らないよ!
「Bleib」は、「ここに留まる」という意味で「戻らない」とした。もしくは「待って!」と呼び止めようとしている?
[ヴァルトシュテッテン男爵夫人]
あなたはどこかへ行くつもりなの、ヴォルフガング?
「hin(どこへ)行く」は「(ここから離れた)あちらへ、すぎさった、死んだ、こわれた」などの意味の言葉。
[ヴォルフガング]
その…… 僕の父がたったいま ここにいたんです
僕は……
1行目は「Zu... Mein Vater~」。厳密には「僕の父に(言っていたんです)」になるが、翻訳に言い淀みがうまく落とせず、こうした。
[ヴァルトシュテッテン男爵夫人]
あなたはもう十分に成長した大人でしょう
いつか人は活動をやめなければならないの
彼(あなた)の父親もその後に続いて行ったのよ
- 2行目「aufhören活動を(やめる)」は「とぎれる、とだえる、やむ、(活動を)停止する、やめる」。
- 「hinterherzulaufenその後に続いて行った」=「hintergherその後から、そのあとで、(すぐ)後ろから」+「zulaufen走っていく、突進する、殺到する、押し寄せる」と理解した。
[アンサンブル]
ジョークとうわべ
誰がその中を目指して落ちるのか?
この大いなる仮装舞踏会
(だらだら歩くような)すり足の踊りと(さまざまな)叫び声
侮蔑みたいな賞賛
輝きみたいなメッキ
なにもかもが劇場
すべてが仮面舞踏会
良いものは悪いもの
そして 悪いものは正しいもの
そして 偽物は本物
そして はっきりしたものなど決してありはしない
Papa ist tot(パパが亡くなったわ)
[ヴォルフガング]
僕はだめなやつだ
僕は働かなくちゃいけないんだ
2行目「arbeiten働く」は「演じる」の意味もある。
[アロイジア]
あら、お姉さま
[セシリア]
なんていう思いがけない光栄かしら
[ヴォルフガング]
ナンネール(姉さん)?
[ナンネール]
ヴォルフガング、パパが死んだわ
[コンスタンツェ]
お父さまが死んだですって、あなたを許すこともないまま
ナンネールは「tot死ぬ」、コンスタンツェは「starb死ぬ」と、同じ死ぬという意味でも異なる単語を用いている。「atarb」は転義・比喩的に「衰える、没落する、(愛・希望などが)消え失せる、日の目を見ずに終わる」などの意味もある。totは形容詞。
[ナンネール]
なぜあなたはあの人を傷つけたの?
[セシリア&娘]
私は一度だってあの男が好きになれなかった
彼は心が狭くて堅苦しかったんだもの
[コンスタンツェ]
でも それでもあなたは辛がるなんてしちゃだめよ
[ナンネール]
あの人はあなたに与えたわ、およそ人間であれば与えることができるかぎりのものを
[アロイジア]
でも 私は彼に感謝しているわよ
[コンスタンツェ]
誰だって自分の道を歩かないといけないものだわ
[ナンネール]
それで あなたはあの人への謝礼があるでしょう
「あの人への感謝があるでしょう」のほうがいいかも? 恩義があるでしょう、返さないといけないものがあるでしょうと、暗になじっている。
[セシリア&娘]
この死が喜ばしい
あなたの父親は一つの冗談も分かりはしなかったんだもの
[コンスタンツェ]
そして やるの、あなたは絶対やらないといけないのよ
[ナンネール]
あなたは私を見捨てたのね
[アロイジア]
私はモーツァルトの妻じゃないもの
[セシリア&娘]
大体いつだって 贈られたのは
いつも いやな感じで厳しいやつだった
[コンスタンツェ]
彼の父親は失われた
「verlier'n失われた」は、「大切なものを失った、亡くした」というニュアンスがある。
[ナンネール]
私はあなたになるの
[セシリア&娘]
まさに今! 私は仕向けよう
今 彼が死んでいるんだから ちょうどいいじゃない
[コンスタンツェ]
ついに 大人になる時がきたっていうことよ
「erwachsen十分に成長する、成人した」。ここのコンスタンツェの発言は命令的な意味合いを含む。
[ナンネール]
決して許されはしないのよ
[アロイジア]
感謝を私があの人にするなんて とんでもないわ
[セシリア&娘]
感動を前にして私は泣こうか
あんたはでも悲しんじゃ駄目なんだねえ
「Rührung感動」は「同情」の意味もある。
Schließ dein Herz in Eisen ein (Reprise)(父への悔悟)
父さん、僕はあなたに証明できるって期待していたんだよ。
僕はあなたの愛情に適った奴だと
だけど その期待じゃあなたと仲直りできなかったね
これでもまだむちゃくちゃにしただけだった
- 4行目は「これでも父さんに台無し(破壊・破滅)を与えただけだった」の意。
異郷で冷たくなって
あなたは僕のものから離れてしまった
最後の言葉もなかったね
- 「Kalt冷たくなって」は、「死んだ」という意味のほか、「冷酷、無情」などの意味も含む。
- 2行目は「僕はあなたから離れてしまった」でもある。
- 3行目「Nicht mal ein letztes Wort」の「mal」は、動かしがたい現実を話者が諦めの気持ちで語るニュアンスがある。
鉄でおまえの心を閉じ込めてやればいい
もっと堅固に厳しくしてしまえばいい
あなたからは何度も言われていたんだ
そして 僕はあなたを信じようとしなかった
1行目「deinおまえの」、3行目「あなたdu」、4行目「あなたをdir」。父の言葉を繰り返しつつ、心を閉じ込められる対象は、おまえ(ヴォルフガング/影)であり父なのだろう。何度も言い聞かせたのも父だけではなく自分自身もあったのかもしれない。信じなかった対象も同じく。ここの部分だけではなく、この曲での「あなた」は単純に父親だけを刺していないのではないかと思われる(「彼」にあたる言葉も同様に)。
あなたは正しかった、僕は分かっているよ
すべては代価を求めて圧し掛かってくるのだと
神さまの奇跡は無償で彼に与えられたものではかなったのだと
- ここも意味が重層していると思われる。
- 1行目は「あなた/おまえは正義を負わされていた」「あなた/おまえは権利を持たされていた」「あなた/おまえは正しいことを与えられていた」。「Recht正しいこと、権利、正義」「Gehabt持った、守った、与えた、負わされた」。
- 2行目の「Preis代価」は「賛美」にも言い換えられる。また、「kostet金額を要する」は「仕事・時間を要する、負担がかかる、犠牲を必要とする、失わされる」の意味にもそれぞれ言い含められる。
Mozarts Verwirrung(モーツァルトの混乱)
[アンサンブル]
よくできた青年だよ!
愚かな人間!
なんとまあ軽蔑に値するやつ!
おまえは意志薄弱の軟弱者!
おまえは腐って駄目になり うわべがあるだけになったのだ!
- 1行目「Bürschlei青年」=Bursche青年、若者、(軽蔑をこめて)やつ+…lein(侮蔑的なニュアンス)。「Armes」は腕の複数形で、比喩的に「能力」の意味。
- 2行目「Dummes」はばかな、何も知らぬ、未熟な、愚かな。「Menschlein」=Mensch(人間)+…lein(侮蔑的なニュアンス)。
つまり、1、2行目はとにかく「おまえ=ヴォルフガング」に対して矮小化を図り、罵っている。
[ヴォルフガング]
急げ! 急げ!
次の曲は……
厄介で終わりが見えないフーガだ
2行目「Abteilung区分、部隊」。作曲で向かい来る次に作らねばならい曲をまとまりとして言っている。日本語にしにくい箇所なので、かなり大雑把になってしまったが、このようにした。
おかしいなあ! おかしいなあ!
今度は姉さんに目の上に布を置かれたみたいなんだよ
目が見えなくってさ ろくな運転もできなくてさ
手枷でおまえの心を閉じ込めてやればいいんだ
[コンスタンツェ]
ヴォルフガング?
[ヴォルフガング]
友達のいない人生があってさ
そんなの荒れ果てた場所みたいなものだよ、もちろん、許されないことさ
残念なことに 彼には荒地ができちゃったみたいだけど
奇跡は全部過ぎ去っていっちゃったよ
自分のものがいないと何もできやしない!
芸術家は自分に厳しくなくちゃ
- 4行目「Wunder奇跡」と訳したが、要は英語のwonderなので、不思議なこと、驚異という意味の奇跡。
- 5行目「Hilflos助けのない、頼るもののない、無力な、自分ではどうにもできない」。
- 6行目「mussやむをえないこと、必然、必要、強制」、「streng厳しい、厳重な、厳密な、過酷な、つらい、困難な」
全部悪いんだ、悪い、悪魔みたいな狼たち! 蛇たち!
「böse悪い、邪悪、いやな、悪人、悪魔、災い」
[アンサンブル]
よくできた青年だ!
[コンスタンツェ]
ヴォルフガング! 何が起きたっていうの?
「Was ist mit dir los?」は今回、「何が起きたっていうの?」と訳したが、「どうしたの?」と尋ねる意味合いがある。
[ヴォルフガング]
なにもかも取り返しがつかなくなったんだ、なくなっちゃった、無駄に過ごしてきたんだ
- 「verlieren失う、なくす、見失う、浪費する」。
- 主語は「We」にあたる。われわれ。僕たち。
[アンサンブル]
愚かな人間だ!
[コンスタンツェ]
あなた 何を言っているの?
翻訳文に含められなかったが、「Zeug(軽蔑的な意味あいにもなる)連中、ひどいもの、もの、たわごと」なので、「あなたは誰かひどい連中のことを言っているのか?」とか「あなたはたわごとを喋っているのか?」の意味合い。
[ヴォルフガング]
おまえはへたくそでがきんちょだ
おまえは僕を狂気に駆り立てる
1行目「kindlich子供らしい、無邪気」。
[アンサンブル]
おまえが努力したところで全てただの苦痛にすぎない
[コンスタンツェ]
やめて! 聞いてよ!
[ヴォルフガング]
僕たち家族も壊れちゃったよ
そうなるのを許したのは僕であって許したのは僕じゃない
[アンサンブル]
おまえは意志薄弱の軟弱者だ
[コンスタンツェ]
私を不安にさせないで! やめて!
[ヴォルフガング]
悪い、悪い、悪い狼、悪魔みたいな狼たち、蛇たち……
邪悪なやつ……
Mozarts Tod(モーツァルトの死)
僕は死を味わう
すでにもう舌の上で転がってるんだ
僕がそれを味わう時間も もうこれ以上は長くはならない
レクイエム、おまえが作曲しているこの曲は
僕の運命を定めるためのもの
いやだ《Nein》、いやだ《Nein》!
僕はこれ以上はやりたくない!
おまえのやりたいことはもうないだろ?
おまえはおまえが望んだものをやり遂げただろ
諦めろよ
3行目「Was willst du noch?」は「おまえはまだ何かを望むのか?」だが、ここでは反語的に訳した。
僕は流れる血で支払ってやるよ
おまえは絶対に今すぐに僕の心臓を刺さなければいけないよ
いまだに代償として僕から血の雫を抜き出したいのなら
でも それは僕の終わりでもある
1行目「ausgeblutet流れる血で支払ってやるよ」は、「ausge支払う、引き渡す」+「bluten出血する」と理解した。
そして僕の終わりは
同様に
おまえの……終わりなんだ
王子さまは王さまになった
それなのに どうして僕はそこから帰らないんだろう、僕は何を見出したんだろう?
僕は星たちの黄金を取りに行ったんだ
そして その時に燃やし尽くされてしまったんだ
僕は長調《メジャー》であり短調《マイナー》
和音《コード》であり旋律《メロディー》
言葉から出るあらゆる音調《トーン》
そして 発話から出るあらゆる音響《サウンド》
それらを備え 感じるままに僕はおしゃべりをするんだ
僕は拍子《タクト》であり休止符
不協和音《ディスコード》であり調和《ハーモニー》
そして 強音《フォルテ》であり弱音《ピアノ》
舞踏《ダンス》であり幻想曲《ファンタジー》
僕はそういう存在なんだ、僕は音楽そのもの
そうして僕はすべてを与えた、だって僕は
僕は僕の持っているものを犠牲にしてきた
幼年のころ、青春のころ
姉さん、父さん
友情、愛情
それに家庭の幸せ
僕は欲しかったんだ……
1行目「Und ich gab alles, was ich binそうして僕はすべてを与えた、だって僕は」は「そうして僕はすべてを与えた、僕は何であるのか」あたりの意味だと思うが、ここは意訳してこのようにした。この「何」はつまり、「Ich bin Musik」を踏まえていると思うので。
Wie wird man seinen Schatten los? (Finale)(影を逃れて(フィナーレ))
[全員で]
どうしたらあの影から逃れて存在できる?
どうしたらあの運命に「いやだ《Nein》」って伝えることができる?
おまえは自分の殻から這い出ることができるのか?
それで 今さら別の何者かになれるとでも?
自問しても解決できないのなら
誰に訊けばいい?
影から絶対に逃れられないのなら
どうしたら自由になんてなれるのだろうか?
戦いは過ぎ去り
そうしておまえの道程は終わりへと向かう
在るのはもはやおまえだけ、おまえが在るだけなのだ
ならば もはや価値が残るのみ、何が破壊されぬ不滅のものであったのかが
しかし 我々が生きている限りは
私たちがそうなることを諦めさせ
問いかけてくるのだ、朝も夜も
3行目「Tag und Nacht」は通常「昼と夜」だが、ここでは「朝と夜」とした。
どうしたらあの影から逃れて存在できる?
どうしたらあの運命に「いやだ《Nein》」って伝えることができる?
おまえは自分の殻から這い出ることができるのか?
それで 今さら別の何者かになれるとでも?
自問しても解決できないのなら
誰に訊けばいい?
影から絶対に逃れられないのなら
どうしたら自由になんてなれるのだろうか?
どうしたらあの影から逃れて存在できる?
[ヴォルフガング]
どうしたら僕たちは生きることができるのか?
[アンサンブル]
どうしたら追いかけてくるあらゆるものから離れられる?
[ヴォルフガング]
僕たちはただ運命の奴隷としてだけしか生きられないのか?
「Schicksal神の摂理、運命、宿命」
[アンサンブル]
どうしたら良心を追い立てて無くしてしまうことができる?
どうしたら自分を形作るものの前から逃げ出せる?
どうしたら逃れられるんだ
[ヴォルフガング]
僕たちには絶対にできないのだろうか、何があろうとも
原文では「Wir können nie, wir können nie」と繰り返している。うまく訳せなかったため、このように訳した。
[アンサンブル]
自問しても解決できないのなら
誰に訊けばいいかだと?
自分の運命を前にしておまえが逃れられるわけがないのに!
[ヴォルフガング]
絶対に、絶対に何があっても自分の影から逃げ出せないというのか!