始めは全体の半分

為せば成るというやつですな。PC向け表示推奨です。

【狼の口】第1、3巻における登山ルートについて

記事作成日:2021/08/12
最終更新日:なし

 

 本記事では、『狼の口』(久慈光久/著)作中における、第1巻および第3巻での登場人物たちの登山ルートについてまとめています。

 なおかつ、そのついでにスイスの公共放送局が『SRF』がYouTube上で「SRF Dok」のアカウントを用いて公開している動画「Flug über den Gotthard | 360° | Doku | SRF Dok」の飛行ルートについてまとめています。公式がまったくそのへん分かるように動画上、記事上で明かしていなかったので……。

狼の口』作中の登山ルートについて

 『狼の口』作中において、ヴァルター(とテル)がゴッタルト峠の東側の山中を通って南北を移動する描写が二度登場する。以下の二つである。

  1. 第1巻所収第三話
  2. 第3巻所収第第七話~第九話

どちらも簡易的に地図を描写してルートの説明もされており、現代の適当な地図と照らし合わせて見ても、かなりざっくりとではあるが、大体実際にはどのようなものであるのかは分かるものにはなっている。前者と後者のルートが単純な往復になっているのかどうかは不明だが、後者のほうはさらに東側の山奥のルートを取るという行動をするほうが無難であるとは推測できる。

 

 また、後者では以下のような説明はないが、前者のほうでは具体的にどの山を通過するのかが明確に示唆されており、少なくとも前者のほうはより詳細なルート特定は容易なものとなっている(cf.第1巻、p.148)。このことから、前者のルートにおいては、登場人物であるヴァルターとテルの2人は大体プローザ山のあたりを通過して南方へと移動したらしいことが窺える。

すぐ西側にある湖のあたりが作中において関所が設定されていると考えられる場所なので、高低差等々を無視した単純な距離でいえば、関所からプローザ山の頂上まではおおよそ1.2㎞程度離れているといえることも分かる。というか、関所と接した山であるとも言えるので、山の範囲で言えばゼロ距離であるのだが。

プローザ山について:
簡単にのみまとめておく。標高は約2738m。関所周辺の山はおおよそこの程度~3000m程度なので、飛び抜けて高いわけでも低いわけでもないが、関所のあたり(=峠のルート上)の周囲ほど標高はやや低い山が多くなる。1巻においてヴァルターとテルが関所に接しているこの山を通ることにしたのも、あまり山の奥深くを通らないで済む最短ルートになることを優先したためだろう。個人的には、念のために山もう一つ分くらいは奥に行ってもいいのではないか、入山地点ももっと関所から距離を置くべきではないかと彼らの登山能力を鑑みても思う次第だが、あの選択、つまり、敵もここまでは見張ってはいまい、来れまいとする楽観視が生死を分けたということなのだろう(※多分、山一つ分程度ならまだ見張り範囲ではあったとは思うが、そのまま無事に南方へ2人とも向かえた可能性はだいぶ高くなっただろうという意味である)。ちなみに、入山地点は作中のマップで見る限り、入るのも出るのもどちらも関所からはおよそ1㎞しか離れていないらしいことが分かる。ここを踏まえても、あれだけ相手のこととその仕打ちを憎んでおきながらも彼らがいかに峠の関所の監視を甘く見ていたかは窺えるだろう。

 

閑話休題。参考として、YouTube上に個人が上げていたこの山の登山動画を紹介しておく。

上記の動画では、具体的な出発・終着地点が分からないのが難点だが(どちらもゴッタルト峠の辺りだと思われる。もっといえば、出発地の方はここから北西1.3キロ程度にあるカッシネッタの辺りか)、この登山者の場合、頂上までの登りに2時間20分、往復に4時間40分かかったとのことで、テル親子はなかなかエクストリームな登山をしていたり、時代や環境の違いがあったり等の問題はあるが、彼らの登山時間についてもある程度想像するのに役立つ情報になるのではないかと思う。
尾根のあたりも多く映るので、作品ファンにはそこもうれしいものになっているとも思われる。テル親子が追い詰められるシーンがこの山の尾根であるとは断言できないが、仮にそうした場合、現代のブローザ山の尾根が実際どういった様子であるのかということがよく分かる。足もとには気を付けるんやで。
また、ついでに述べておくと、動画を観てもらっても分かるように、峠周辺の山は実際にはヴァルター(とテル)が行ったようなエクストリーム登山には不向きな山であることが分かる。そもそもあんな登山普通はできるかとかそのへんは置いておいて、できるものとして前提を組んでスイスの他の山を見た場合、できそうな山はちらほら散見できる。また、作中の山中の見張り小屋などの設置も、峠周辺の山だと実際には難しそうだが、他の山を見れば可能そうなものが散見される。あくまで私の推測でしかないが、峠周辺の山の描写は、実際のブローザ山等々の周辺の山をモデルにしているというだけの話ではなく、アルプス(やまたその周辺)の山々もふんわりとモデルにしているのではないかとも思うので、こうしたものを扱っている動画や写真類も見ることをオススメする。あの作品がいかに作品内容含め「イメージ」の上で成り立っているのかが窺い知られるだろう(念のため書き添えておきますが、嫌味として書いているのではない。このあたりの私の考えについては、感想ログ記事あたりを参照していただけるとご理解いただけるものと思います)。
他にも、プローザ山を登山した人々によるレポート及び写真を紹介していたWEBサイトを紹介しておく。この辺りからも実際はどういうものなのかということがよく伝わってくるだろう。

  • 『hikr.org』-「Monte Prosa」(最終アクセス日:2021/08/12)

 想像するに、関所の北方約1㎞地点から入山したテル親子はある程度登山が進んだところで見張り台の雑兵に発見され、関所にも情報が先んじて知らされ、関所のヴォルフラムさんたちは公領の境界近く(に多分関所があるのだとすると、そこから出発して)、なんとかテル親子に追いついたのだろうと考えられる。移動距離的には多分、関所から直接来た彼らのほうがはるかに短いのだろうとは思うので、登山時間だとか登山ルートの問題(=傾斜の度合い、人が通れる道の有無)テル親子のエクストリーム登山という問題はあれど、まあ、あんなにぞろぞろと揃って到着できたのだろう。たぶん。

 

 次に、第3巻にあるルートについて。上述したが、こちらは1巻ほど具体的にルートが把握できないようなマップしか描写されないため輪をかけてルートの特定ができないが、1巻のこともあったので関所側も対策の強化はしていそうなものだし、ヴァルター側も極力敵にすぐには察知されたくないとは考えるだろうしで、もっと東の山奥を通るルートを採用しているのではないかと私は推測している。せめてプローザ山の隣のピッツォ・チェントラーレ(標高:2999m)くらいは行ってほしいものである。もっと言えば、用心を重ねるのならソスト山なりピッツォ・デル・ソーレの辺りから北へ行ってほしいくらいだが、冬ではないにしろひたすら方向把握も難しそうな中で山を歩くことになるのだから、食料・体力面を鑑みてもさすがのヴァルターくんでも無理が強いのかもしれない。かなり雑な言い方をしてしまうが、14世紀の装備だし。囮との連携もうまくいかなさそうだし。なので、せめてチェントラーレと思う次第である。また、3巻でヴァルターを発見・対応した雑兵たちの反応からも、1巻よりも山奥のルートなのではないかという雰囲気は掴みとれるものである。

『SRF』が公開している動画のルートについて


www.youtube.com(公開日:2016/05/26 ※撮影日時は不明)(最終アクセス日:2021/08/12)

 

 次に、スイスの公共放送局が『SRF』がYouTube上で「SRF Dok」のアカウントを用いて公開している動画「Flug über den Gotthard | 360° | Doku | SRF Dok」(最終アクセス日:2021/08/12)の飛行ルートについてまとめる。
公式側がこの動画の撮影場所について言及しているのが動画公開ページキャプション部分のVon Erstfeld nach Bodio hoch über dem Bodenのみで起点と終着点の場所が知られる程度だったため、もののついでにこちらで撮影場所の特定をした次第である。

 

 とはいえ、マイマップを利用して作成したものを貼り、少し説明するに留める。

 

 

 マップ上のオレンジのラインがカメラのルートであるが、あくまで推定である。特に雪山をひたすら飛んでいる辺りなどはもう少しずれてくるかもしれない。
この動画はゴッタルト・トンネルの完成に寄せてその記念で撮影されたもののようだが、かなりトンネルからも峠の道からも逸れているようである。ゴッタルトを売りにした動画なのでせめてアイロロくらいは通っているものかと思ったが、そうでもないようだ。たぶん、上空を飛ぶのに安全なルートをとっているのだろう(※ゴッタルトルートトンネルの主要トンネルのほぼ上空を撮影しているものである)。雪山上空を飛ばしているところなど、かなりすごい技術を展開しているらしいことは察することができる。

 

 ここから『狼の口』に話を戻すが、この動画で観られる景色は、第3巻でのヴァルターの登山ルートをなんとなく想像するのにも役立つのではないかと思われる。ちょうど雪山を通過している辺りなどは、やや東に行き過ぎてはいるが、「せめてこれくらいまで山奥のルートは通っているだろう」という(あくまでも私の想像なり理想の)一帯を映してもいるためである。それがあったのでこうして記事に取りあげた次第である。なおかつ、1巻のこともあるし、あの辺りの雪山の具合も上空から眺められるのも楽しめるかと思う。

 

 最後に、この動画に関する記事や動画類もまとめて紹介しておく。