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【狼の口】カバー下ドイツ語あらすじの翻訳

記事作成日:2020/04/02
最終更新日:2023/07/28

▼ 更新記録(ここをクリックで展開)
  • 2023/07/28
    • 修正:『狼の口 revised edition』の刊行にあたり概要文修正および見出しの修正
    • 追記:『狼の口 revised edition』1、2巻のカバー下あらすじについて追記
    • 修正:旧版第1巻あらすじの原文の誤字修正および翻訳文の一部修正と「翻訳にあたってのメモ」の部分の加筆
    • 修正:旧版第2巻「翻訳にあたってのメモ」の部分の加筆
  • 2020/07/12
    • 原文を「blockquote」タグで括った他、読みやすさのために翻訳文の言い回しを少し修正した。
 

 

本記事では、漫画『狼の口』各巻のカバー下(表紙)部分に記載されているドイツ語のあらすじの原文と自炊の翻訳文を書いておく。
とはいえ、素人が辞書と格闘しつつ読んだものなので、明らかな誤訳が発生している可能性高しであるため、お気づきになられた方はぜひご指摘ください。

本記事では、最初に発売された全8巻本を「旧版」、のちに合本されて発売されたもの(『狼の口 revised edition』)を「新版(または新装版)」と仮称している。

 

ちなみに本記事に掲載した翻訳は、先に再読書会(当ブログにログあり)の中でやったものを改めて抜き出してまとめたものである。

 

旧版

1巻

原文

Im frühen 14. Jahrhundert wachte
ein gnadenloser Wächter über dem St.
Gotthard Pass und niemand könnte die
Grenze ohne ein gründliches Verhör
passieren. Dir uneinnehmbare Festung
wurbe "Wolfsmund" genannt.

翻訳文

14世紀初期。その世紀において最も
冷徹な監視人が聖ゴッタルト峠を支配していたため、
彼による徹底的な取り調べが起きてしまえば、
この領土を越えられる者など誰一人として存在しなかった。
難攻不落としてその砦は聳え立ち、
狼の口」と呼ばれるようになったのである。

翻訳にあたってのメモ

  • Jahrhundertを「1世紀間に亘り」としたけど、多分、14世紀初期あたりのことを単に言ってるだけだと思う。なので、「このころ」ってしたほうがいいような気もする。他に適当な言い回しないの?って思うんだけど、ないの? それとも、ヴォルフラムさん死せどその名は1世紀間君臨せりってことなの? と、よくわかんないので思うんだけどどうなんどす?【2023/07/28追記】Jahrhunderdertを以前は「1世紀間に亘り」と仮にしておいたが、見直すにあたって、「その世紀において最も」に修正した。こうするためには通常、「Jahrhundertprojekt(今世紀最大のプロジェクト)」のように「jahrhundert+名詞」で表現する必要があるため、多分かなり苦しいことになるのだが、今回修正した意味合いのほうが表現として自然なものになるため、多分、この意味合いで書かれているのだろうと解したためである。

 

2巻

原文

Das Volk wird von ben Habsburgern unterbrücht.
Mutige Männer aus der Schwyz, Uri und Unterwalden haben sich
Zusammengeschlossen und ziehen in den Kampf.
Der Offizier, der den schwer einzunehmenden "Wolfsmund" verteidigen
soll, heißt Wolfram. Er ist ein hochgewachsener weißhaariger Mann,
Der stets ein freundliehes Lacheln zeigt. Tatsachlich jedoch hat er einen
Grausamen und teuflischen Charakter.

翻訳文

この民衆たちはハプスブルク家に関係する人物に妨害されていた。
勇敢な者たちはシュヴィーツ、ウーリ、ウンターヴァルデンにまとめて閉じ込められ、
この戦いのために咎めを受けていた。
この幹部は、重装備を備え、重圧的にただ重苦しく厳重に「狼の口」を守る
職務に就いており、ヴォルフラムと呼ばれていた。彼は、背丈が高い白髪の男で、
絶えず友好的な愛想のいい微笑みを見せていた。ところが実際は、等しく
残酷無慈悲に振る舞う、悪魔のように非人間的な人物であった。

翻訳にあたってのメモ

  • ここでもまっとうに代官の言い回しもせず、かといって1巻時に見られた監視人という言い方もされず、Offizier(幹部、士官)という言い方がされている。上から抑えつけてる感じのニュアンスにしたかったんだろう。
  • Zusammengeschlossenはまとめて閉じ込められと訳した。Zusammen…(一緒に、合わせて)+geschlossen(閉めた、封をした、閉じ込めた)と理解。
  • 「der den schwer einzunehmenden重装備を備え、重圧的にただ重苦しく厳重に」は、「schwer重い、重装備の、重苦しい」「Ein…中から外への・主語へ向かう・包囲の・ある状態へ至る・執拗に反復するニュアンス+zunehmenden増大する、強まる、重くなる」。
    人々はとにかく重圧に苦しんでいるという駄目押し表現だと思うので、こちらもとにかく駄目押しな感じに訳しておいた。
  • heißt Wolframは単に「ヴォルフラムと呼ばれていた」としましたが、多分、呼ぶとかの意味合いのheißtだけじゃなくて、「激しい、興奮した、危険のある、熱い」の意味合いのほうも匂わせて読むべき。ヴォルフラムさんは危険な男なんどすなあ。
  • 「背が高くて白髪の男 hochgewachsener weißhaariger Mann」が公式側の容姿設定のようですね。金髪というよりプラチナブロンドくらいを思えばいいのかな。普通の白髪ではないよなあ、カラー絵はどう見ても。でもweissはどう読んでも白。ちなみにドイツ語でも「aschblond(アッシュブロンド)」と表現できる語彙もあって、カラー絵などを見る限りは白髪というよりもアッシュブロンドといったほうが近い気はする。
  • 「Der stets ein freundliehes Lacheln zeigt絶えず友好的な愛想のいい微笑みを見せていた」。「freundliehes友好的な、愛想のいい、親切な」。
  • zeigt、細かいこというと、そういう振舞いをしてみせる、見せつける、分からせる、提示するとかなんですよ。あくまで表面的に取り繕っているだけのマスク感の演出的文章だと思って読みました。
  • einenはeinに「統一する」の意味合いも汲んで、「等しく」としておいた。
  • 「Grausamen und teuflischen Charakter残酷無慈悲で悪魔のように非人間的な人物であった」ここはできるだけ言葉を汲もうとしてますね。「Grausamen残酷な、無慈悲な、冷酷な」「teuflischen悪魔のような、非人間的な、恐ろしい」。

 

 

3巻

原文

Niemand ist bisher durch Pass gekommen, den man
"Wolfsmund" nennt.
Die menschen leiden unter Unterdrückung. Doch nun haben
sie die Waffen in die Hand genommen.
Der letzte Kampf um ihre Freiheit beginnt.

翻訳文

あの峠に生じたもののせいでこれまでにこの場所を通ることができた者は誰一人おらず、
人々はそれを「狼の口」と呼んでいた。
力なき人々は圧制のもとで苦しんだ。しかし、今、
彼らはその手で武器を掴み取ったのである。
彼らの自由をめぐる究極の戦いが始まる。

翻訳にあたってのメモ

  • menschenはここでは「力なき人々」とした。
  • Der letzte Kampfは「(この)最後の戦い」って読めるけど、気が早いわおまえたちという気がしたので、究極のほうをチョイスした。

 

4巻

原文

Im Jahre 1315, spät in der Nacht des 15. Oktober,
hatte das Volk die Umzingelung im Norden und Süden geschlossen
und griff die Wachfestung auf dem Pass an.
Der Aufstand gegen die Habsburger Eindringlinge
hatte begonnen.

翻訳文

1315年の10月15日の夜更けと共に
民衆たちは南北を包囲して出口を閉ざし、
この峠に建つ監視砦へと手を伸ばす。
この反乱はハプスブルク家から来た侵入者との衝突の
始まりだ。

翻訳にあたってのメモ

  • WachfestungはWache+festungと解して監視砦とした。1巻でも代官をわざわざ監視人と読んでたので、そこにつながるんでしょうね。1巻同様、このあらすじには、「見張られている」という意識があるようです。
  • Habsburger Eindringlingeはどうしたもんか私にはお手上げだけど、ハプスブルク家から来た侵入者としておいた。われらの土地を不法に占拠しているという意味合いで言っていると思うので。

 

5巻

原文

Der Kampf zwischen den herrschenden Habsburgern.
die auf dem Pass die Zollstelle "Wolfsmund" errichtet haben,
und dem Bündnis Schwyz, Uri und Unterwalden,
Die den Pass zurückerobern wollen.

翻訳文

この戦いは、この峠に税関所たる「狼の口」を建てた
ハプスブルク家との間で起きたものである。
同盟を結んだシュヴィーツ、ウーリ、ウンターヴァルデンは、
この峠を奪い返すことを欲している。

翻訳にあたってのメモ

  • 「税関所」と訳したZollstelleはzoll関税+stelle場所・役所と解した。だが、Zollは比喩的に代償・犠牲をも意味するため、「犠牲を払う場所」の意味合いも含んだ言葉のチョイスだと思うのは補足しておく。
  • 税関所を単に意味させたいなら、Zollamtでいいんですよね。ちなみにamtは役職・官人・職務等を意味し、amtmannで代官も指す。つまり、やはりここでもわざわざ言葉を選んでいることが窺えるのである。
  • 他巻でもそうだったが、三州の名前を上げるとき、まっとうにシュヴィーツから名前を出してるんですよね、ウーリじゃなくて。モルガルテンの最重要原因であり、スイスの由来に深く関わってることを暗に主張してるのかもしれない。
    あと、盟約者団たちはどのあらすじも「民衆」とかの言葉で括られた存在でしか登場しない特徴もある。あらすじではまったくテルの名もというか、ヴァルターの名前すらない。

 

6巻

原文

Die Truppen des Bündnis suchen jeden
Winkel der Zollstelle nach Wolfram ab.
Dieser hält sich in einer Kammer am Boden des Kamins versteckt.
Eine lange Geschichte nähert sich ihrem Ende. Wie wird sie ausgehen?

翻訳文

特別の任にある盟約を結んだこの一団は、ヴォルフラムを求め、
この税関所のあらゆる場所、人目につかぬ片隅までも探した。
その人物は、暖炉の隠された場所に設けられた小さな部屋にいた。
一つの長い物語がその結末に近づいている。いかにしてそこに至るのであろうか?

翻訳にあたってのメモ

  • 今回だいぶ意訳になってしまったような気がする。
  • 税関所は今回もZollstelle。
  • 「小さな部屋」としたKammerは、他にも、穴倉に住まうような動物のねぐらや獲物を追い込む場所などの意味もあるのだけど、多分そのへんも意識してよいと思う。

 

7巻

原文

Der Bund der Eidgenossen, der Wolfram besiegt hat,
Strebt jetzt die Befreiung von den Habsburgern an.
Das Volk ist bewaffnet und in Aufruhr.
Es ist der Beginn
der historischen Schlacht am Morgarten.

翻訳文

盟約によって結びついた者たちはヴォルフラムに打ち勝ち、
現在はハプスブルク家からの解放のために邁進している。
この民衆は武装し、強硬な反乱のさなかにある。
これは、歴史的に重要なものである、かのモルガルテンでの激しい戦闘の
その始まりである。

翻訳にあたってのメモ

  • Eidgenossenは「盟約者、誓約を結んだ友人、盟友」を指すが、特にスイス国民を表しもする言葉である点、注目に値する。この一文で駄目押しなくらい盟約者・誓約とスイスの繋がりを強調してる感。Bundも「盟約・同盟」の意味なので。
  • eid誓約+genossen(genießenの過去分詞)楽しむ・食べる・享受する。
  • 「強硬な反乱」としたAufruhrは、反乱・暴動・騒擾を意味するんですが、細かいこと言うと、政治的不安・国家による抑圧に対し、暴力を交えてでも強硬的に大きく反抗することを示す言葉。
  • historischen「歴史の、史実による、記録上の、歴史的な、歴史的に重要な」。前回の6巻ではGeschichteっていうのがありましたが、こちらも歴史に関わる語ながら、作り話の類も含意する言葉のチョイスだったのが、今回はきっぱり歴史・史実を強調した上でモルガルテンの戦いを出してるんですね。あのモルガルテンの話やりますよーっていう。実際はだいぶフィクションなので、あくまで歴史ワードとしての強調みたいなもんなんでしょう。
  • Schlachtが特に激しい戦闘を指す言葉なので、このへんも日本語の文章として見て不格好になっちゃいましたが、取りあえずごり押し表現しておいた。

 

8巻

原文

Der Bund brei Waldsttätten hat in der Schlacht am Morgarten gesiegt.
Nun wird der Bund erneut geschlossen und besiegelt.
Die Menschen nennen dies den "Bund von Morgarten".

翻訳文

盟約を結んだ三森林州はモルガルテンでの激しい戦闘に勝利した。
故に、この盟約は結びつきを強固なものにして更新された。
人間たちは新たに結び直されたその盟約を「モルガルテンによって結ばれた盟約」と呼んだ。

翻訳にあたってのメモ

  • Waldsttätten=Waldstattヴァルトシュタット。いわゆる原初三州+αでルツェルンを指すのが普通。brei(三つの)が前に付いてるので、三州であることを特に強調してるんでしょう。
    Wald森林+Stätte場所。訳では三森林州と無難にしておいた。でももしかしたらここ、このあらすじ上では「Walstatt(戦場)」と掛けてるのかもしれないなあとやや思った。
  • gesiegtは「勝利」と簡単に読んだけど、本来のニュアンスなら「(強調して)勝利」の意味だと思う。「ge…+siegt(勝利)」。ge...はいろいろあるけど、ここでは強調の意味合いで汲んだ。
  • Menschen(人間たち/人々)って、ここに至ってかなり広い範囲で人を指す言葉が出る。いつも民衆たちとかそういう意味合いの言葉だったんですが、後世の人のことも言ってるのかな。独立した自由へと向かい出した人々という意味もあるかと思って「人間たち」というふうにしておいた。
  • "Bund von Morgarten「モルガルテンによって結ばれた盟約」"は、むしろ、ふつう、Morgartenbriefっていうと思うけど、8巻いつもよりマシマシでBund(盟約)って言葉ごり押しなので、ここでもごり押ししたかったんだろうそうなんだろうどうなんだろう。
  • 二行目は無理な訳になってしまったかもしれない。

 

各巻共通のカバー下後ろ側の部分

原文

Poesie des Widerstandes

翻訳文

だいたい「抵抗(レジスタンス)の詩」の意。「圧政に抗う者たちの詩」とか。

翻訳にあたってのメモ

  • poesieは単に「詩」程度の意味だが、叙事詩あたりを意識しているのかもしれない。叙事詩は民族・国民的なつながりを意識するものとして機能したり、英雄や事件を描くものなので。

新版

1巻

旧版第1巻と同様のテキストとなるため省略する。また、旧版では「各巻共通のカバー下後ろ側の部分」の項目で触れた「Poesie des Widerstandes」も書かれている。

2巻

新版第1巻と同様であるため省略する。