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【野狗子】レビュー

記事作成日:2025/01/11
最終更新日:---

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  • 2025/01/11
    • 作成・投稿
 

 

 本記事では、バトル(またはホラー)アクションアドベンチャーゲーム『野狗子: Slitterhead』の私のプレイ感想を掲載しております。
本当はいつもどおりPCゲームプラットフォームサイト『Steam』の商品ページのレビューに掲載したかったのですが(私はSteamを介してプレイしたため)、文字数制限に引っかかったため、「ならはみ出た分を含んだ自レビューは自分のこの混沌ブログに投げときゃいいや」と思ってこうして記事作成をした次第となります。大したこと書いてるわけでもなく、わりとある一点のことをひたすら書き綴ってるだけなので、個人的なレビュー記録にでも書いておけばいいかとも思ったのですが、まあいいやとインターネットの波に乗せております。どんぶらこどんぶらこ。



『野狗子: Slitterhead』とは

 本作は、2024年11月に発売された作品で、開発は『SIREN』などを手掛けた外山圭一郎氏らが率いるBokeh Game Studioによる。本作はこのゲームスタジオの第一作目の作品でもある。プラットフォームは、PS4/PS5、XBOX Series X/S、Steam、Epic Games。パッケージ版はPS5のみ販売された。このパッケージ版には「マニアックエディション」と名付けられた特別版も別途販売されていた。「野狗子」の読み方は「やくし」である。

 あらすじは下記に列記しておくサイトにまとめられているため、そちらを参照していただきたいが(※『Wikipedia』の記事はあらすじどころか大幅なネタバレを含んでいるため、未プレイの場合は要注意)、ここでも簡単にまとめておくと以下のようなものとなる。

 90年代の香港をイメージした架空の都市を舞台にしたホラー寄りのアクション作品。九龍城をモデルとした場所に象徴されるような混沌とした雑踏の中に紛れ巣食っている野狗子という、人の脳を食らい、人に紛れて生きているこの怪物を倒すために現れた「憑鬼」という霊体存在を中心にして物語は進展していく。

 ちなみに本作で登場する野狗子とは、中国の清代初期に蒲松齢《ほしょうれい》の手によって書かれた怪異小説集『聊斎志異』の中で登場する化け物に着想を得たものである。『聊斎志異』は怪異の世界と人間の世界の交錯を描いたものとなっている(そしてこのゲーム作品もそうしたものを扱っている作品だと言えるのだとも思う)。この化け物が登場するのは第一巻に収録されている「野狗」の物語である。ちなみに野狗は、普通、「野良犬」の意味。ここではこの怪物の見た目は動物の頭と人間の身体をしたものとして表現されており、死体の山に近付いてきてその脳を吸うようにして食べるという描写がされている。そしてまた、国が乱れている中を逃げ惑う主人公は兵士から逃れるために死体の山の中に隠れていたときにこの怪物を目の当たりにするのだが、その気配を感じたときにまず彼は「野良犬が来たらしい」と表現し、怪物だと判明すると慌てて両手で抱えられる程度の岩を盾にしてこれを退治した。この反撃の際には怪物は梟の(鳴き声の)ような声を上げて逃げ出したとされる。
原文および書籍で確認できる訳出例はWEB上で確かめられるものを以下の「参考サイト」の項目に挙げておいた。

 

参考サイト:

  • 『Bokeh Game Studio』-「野狗子: Slitterhead」(最終アクセス日:2025/01/11)
  • YouTube』-「Bokeh Game Studioのチャンネル」(最終アクセス日:2025/01/11)
  • 『Steam』-「野狗子: Slitterhead」(最終アクセス日:2025/01/11)
  • Wikipedia(※英語版)』-「Slitterhead」(最終アクセス日:2025/01/11) ※日本語版が2025/01/11現在時点で存在しないため、英語版を参照しておく。
  • ファミ通.com』-「野狗子: Slitterhead」(最終アクセス日:2025/01/11)
  • 『IGN Japan』-「野狗子: Slitterhead」(最終アクセス日:2025/01/11)
  • 『Wikisorce(※中国語版)』-「聊齋志異/第01卷」-「野狗」(最終アクセス日:2025/01/11) ※原文
  • 国立国会図書館デジタルコレクション』-「定本聊斎志異 巻1(蒲松齢/著、柴田天馬/翻訳、修道社、1967年)」-「野狗」(最終アクセス日:2025/01/11) ※翻訳文の参考。ちなみにこの翻訳文では冒頭部分は主人公が乱で「麻〔を裂くように〕人を殺した」というような表現で訳出されているが、割とここの主語は原文からはいまいちどう解釈していいのかは曖昧なような気がする。自分が暴れたツケを払いたくなくて逃げまどっているのか、その混乱に巻き込まれたくなくて逃げているのか……。

 

公式PV

WEB『Youtube』-「Bokeh Game Studio」-「Slitterhead - Gameplay Trailer - SGF 2024」(公開日:2024/06/08)

 

WEB『Youtube』-「Bokeh Game Studio」-「野狗子: Slitterhead - Teaser Trailer - TGA 2021」(公開日:2021/12/10)

こちらのほうは制作を始めた最初期に公開したティザームービーであるため、実際に販売された最終版とはやや異なるところもあるのですが、初期の作品イメージを伝えるものなのでこちらも紹介しておきます。


感想

 『Steam』に投稿したレビューはこちら(『Steam』-「野狗子: Slitterhead」-「レビュー」(最終アクセス日:2025/01/11))。今回、ここだと文字数制限に引っかかるほどの文章量があったため、Steamレビューには一部必要最低限の箇所のみを書くに留め、完全版はこの本記事に掲載するという体裁を取った。

 

※ネタバレも伏せずにどんどん書いています。Steamレビュー上で用いた伏字や太字などの装飾をするための専用タグはここに乗せるにあたって直し、上述したように伏字部分はこちらではもうタグ処理せずに普通に記載しています。

 

最初に書いておくけれども、『聊斎志異』の「野狗」という短編に登場する怪物から着想を得てこういうふうに描き出した着眼点も、展開していくシナリオのその着眼点もどちらも私としては「すごい!」と心から思っているという前提ありきで以下のレビューを書いていく。

 

総合的に見てどこもかしこもポテンシャルはあるのに中途半端さが悪目立ちしていて結果平均点みたいな作品だった。完全にそうってわけではないけれども、SIRENの薄いセルフパロディーみたいなところもあるのだけれど、ここも中途半端さゆえに考えれば考えるだけなんだか良くない引っかかりになるみたいなところがある。つまり粗削りな作品だった。
制作にあたってシナリオ部分だけにしてもいろいろな制作上の制約下で取捨選択して一つの作品として作り上げることにだいぶ欠点があった。考察する余地のある楽しさというより、(恐らく作品設定自体はちゃんとしているだろうに)そういうことができるところにまでちゃんと表現できてないままの欠点が目立つシナリオになってしまっていた。
以降、基本的に酷評めの評価を書き連ねに書き連ねているけれども、それはそれとしてフラットに見たときにクソゲーかと言われるとそう言うほどひどいというわけでもないし、ゲーム作品としては成り立っているとは思うので、「おすすめする」扱いにしている。

 

あと、動作確認も兼ねて体験版→製品版という段階でプレイしたのだけれども、体験版の範囲、時間が巻き戻るところまで含めたほうがいいのでは?と思った。

 

システム:キーボード+マウスまたはコントローラーでプレイ可能。私はコントローラーでやりました。シナリオ部分はムービーだとか半ばノベルゲーム的な感じで進み、アクション及び探索は3Dで街中などのマップを動き回る場面が多い。
プレイアブルキャラクターのスキルを上げて戦闘のための強化したり、適宜、プレイアブルキャラクターと一番の中心人物である夜梟という、プレイアブルキャラクターに乗り移る霊的なもの(=精神生命体「憑鬼」)との対話シナリオを読み進めたり、追加されていくマップをやったり、同じマップをぐるぐる回ったりして必要条件をこなしたりしながらEDへ向かっていく感じ。結構メニュー画面的な画面からあっちこっち行くことになるので、最初のうちは(というか私の場合は中盤をだいぶ過ぎるまでは)マルチタスクな感じでヒイヒイ言わされていたけれども、慣れるとぼちぼちその辺はあまりストレスなくこなしていける。スキルのレベルアップなども中盤を過ぎる頃にはなんかめちゃくちゃある上げられる要素のどれを上げたほうが自分には良さそうかとかもちゃんと分かってスマートに対処できる。慣れれば。
マップ選択なんかも整理はされているけれどもシンプルとは言い難いところがあるので、こちらもある程度触るまではちょっと慣れないかもしれない。

 

対話シナリオは基本的にはマップをクリアすると順次解放されていく仕様で、その都度、解放されたものをちゃんと読まないとマップには触れられないようになっているので、つまりは強制的に読まされることになるというものだった。物語の進行とも関わるためここはしょうがないが、やや読まさせられている感じはここも中盤過ぎて慣れるまではちょっと苦痛なところがあった。序盤なんかは結構画面も独特なのでちょっとキツかったけれど、やはり慣れればどうということはない感じになっていく。

 

操作感は結構楽しい。90年代頃の九龍城を中心とした香港(をイメージというか下地に置いたような、一応は架空の場所として設定されている所)をうろうろできる。地名なんかは(全てが全てそうなのかまでは観確認だけども)現実のものをパロディーしたようなものとはいえ、架空の名前になっているはずである。つまり、一応架空の場所というふうには言えるけれども、明らかに元が香港であることはそういうところからも分かるようになっている。条件が整えば縦にも移動できるので実際に設定されているマップ範囲よりもうろうろできる範囲が広く感じられるようになっていると思う。なんならもっと探索できたらよかったと心地よく残念に思えるくらいには良かった。プレイヤーが実際動かすのは憑鬼という精神生命体となるので、そこら辺のただの通行人などに乗り移って移動するという仕組みも面白い。ただ、敵と遭遇したときにここに追いかけっこ要素が入ったりしてできるだけスマートにいろいろなボタンを駆使して操作していくことになるので、ここは最後まで骨が折れた(やはり中盤過ぎというかほぼ終盤近くだったものの、慣れというのはできてはくるのだけども)。時間制限まであったときにはちょっと発狂しながら追いかけていた。ここがぬるぬるこなせる人だと、面白さの感じ方はもっと強くなるのだと思う。ここに関して他の人のレビューだと、同じマップの使い回しを誤魔化すような追いかけっこと戦闘の流れ作業的なものの繰り返しという評価もあって、それもまあさもありなんとは思うけれども、個人的にはこの点はそこまで気にならない(追いかけるのに必死にさせられるため)ものの、それでも、ああ、また追いかけっこさせられるのね、なんか知らんけどまた取りあえず戦闘なのねとは思う。むしろそれをやる意味みたいなのが煮詰められていない曖昧さのほうがやっていて気になった。
戦闘なんかも補足的なスキルまで余すことなく使おうと思うと本当にコントローラーの全ボタンを駆使して戦いますという勢いで使うことになるので、マルチタスクや瞬発力を求められることが苦手だとだいぶつらいものがある。結局は攻撃ボタンであるところのものをひたすら連打する場面が圧倒的に多いので力業でどうにかできるのだけれども、それでも最低限、憑依ボタンと回復ボタンくらいはできるだけ最初のうちに覚えてヒイヒイ言いながら戦うことになった。慣れてくると憑依タイミングを掴めたり、スキルも一部くらいは使いながら戦えるようになってくるし、回復系もがんばってうろちょろできるようになってくるくらいの余裕は設けられている(私は放射系のスキルを二つ使ったっきりであったが)。恐らく、難易度が上がるほどにこのへんの縦横無尽なコントローラー使いが要求されるのだと思う。ただ、こうして殴る一択という勢いで力技でこなせてしまうようになっている分、そこに不満点が出る人もいるかもなという感じではある。私の場合はごり押しが許されたからクリアできたというところがあるのだけれども。とにかくチュートリアルパートがスキルを使うことを強制されるので一番つらかった。初手でボタンをやたらと押すことを強いられていたので。あと、覚えたそばからどんどんスキル追加しますでわけが分かんなくなってもきていた。結局のところ、使う使わないはプレーヤーの自由だけど、もう少しシンプルにしてくれても良かったのではないかと思う……。最初のチュートリアル兼ねてる間は戦闘中に画面の端っこにボタン操作のガイドも重ねて表示してくれているのだけれども、あの画面とかもオプションとかで今後の戦闘でも常に表示しておくように設定できるようにしておいても良かったのではとも思った。

 

探索は先述の追いかけっこのときといい、結構、マップ把握がものを言うところがあるところがある。本作では憑鬼の記憶収集というものを各マップで行ったりもするのだけれども、ここなんかは割とマップ探索が好きだと自ずとほとんど集められるようになっている。ただ、そのマップを特定のところまで進めないとそもそも拾いに行けないとか、今そんな拾いに行くタイミングなのか?という展開のときに拾いに行くしかないことになったりとかもするし、ただうろつくだけじゃなくて何となく好奇心に駆られて進める場所の限界を超えてみたりとかもしないと見つからない場所にもあったりとかもあるので、一部、恐らくはなかなかの難易度にもなっている。
けど、戦闘とかよりもうろつくほうが個人的には好きだったので、記憶収集のほうが楽しかった。地味な作業と言えば地味な作業ですが。本作だと『SIREN』シリーズを踏まえてプレイされる方も少なくないとは思うのですが、SIRENのように収集対象がバラエティー豊かということが本作にはないのですが、SIRENのように収集が大変ということもまた本作にはないので、だいぶこのへんも優しくなっていると思う(ついでに言えば、ゲームを進めるということにつけても本作はだいぶ優しいので、よほどでなければ積むことはないようになっている)。ただ、SIRENアーカイブ(=収集要素)を用いることで作品世界の深みを補強・補足していたのに対して本作はそれがないという点がマイナスのほうに特出してしまっていると思う。
プレイアブルキャラクターとなる人たちも基本的には探索の形で見つけていくことになるのだけれど(そしてほとんどの人たちはシナリオを進行させる上でそれを果たさないと進められない仕様)、ドニくんだとか、一部、やけに見つけ出しにくい。なんかヒントらしいヒントも暗に示されるのだけれども、作品を進めていく中でそのヒントがそこに繋がるなんて少なくとも私には思えなかったのでマジでこんなん分かるわけなくない?状態で攻略情報に頼ることになっていた(恐らくはあのヒントの出し方なんかも今後の時間干渉による影響の波及結果によって電話というものを媒体として回線がつながるみたいなことを表しているのだろうなあとはいろいろ終わってから一応そうは納得できるのだけれども。因果の巡りとかはなんかもういろいろ置いといて)。

 

音声は英語。Steamだとフル音声としてカウントしないといけないからそこに表記されているけれども、厳密には一部に英語音声ありくらいのものだと思う。対話シナリオ部分なんかもキャラクターの相槌音声とかで処理されてしまっている箇所がかなり多いので、ちょっと耳に鬱陶しい。英語音声にしてももっとちゃんと話してほしかったなとは思ってしまうところがある。

 

グラフィック:3D。過ぎし日の香港風の街並みや建物の中が十分に目で楽しめるレベル。キャラクター造詣などもどのキャラクターも良い。敵キャラクターとして配置されているクリーチャーデザインなども素晴らしい。
ざっくり他の人のレビューを見る限り、グラフィックが古いという評価も目立つけれども、個人的にはこれでもだいぶ綺麗過ぎるくらいに思った。PCがせいぜい推奨レベルに届くかどうかのシステムなのでLOWでずっとやっていたけれど(それでも一部戦闘でちょっとカクつくときがあったりしたので、最低条件で本当にプレイできるのだろうか?と思ったが)、それでも画面はずっと綺麗だった。むしろこれ以上ディティールが細かく出るほうが視覚的な情報量が多過ぎることになるような気がする。
あと、他にもレビューでは、クリーチャーデザインのバリエーションの少なさみたいなのに触れているのも見かけたけれども、これに関しても個人的には気にならないどころか、十分な数はあったと思うというか、これくらいのバリエーションで然りというシナリオになっていたと思う。問題があるなら、そのバリエーション差がどうして発生するのかみたいなのをちゃんと作中で明らかにはしなかったという点にあると思う。SIRENだとこの辺もちゃんとぼちぼちながら説明はされてたけれど、本作ではなんでやねんのままなので、割とツッコミたくなる敵がちらほらいる。基本的にいわゆるザコに当たるクリーチャーといい、寄生生物だとかそのクリーチャーの性格を連想できるように造詣されているのでむしろ巧みなものがあったと思う。本領発揮状態だとカマキリ(つまりハリガネムシを連想できるようになっている)っぽかったり、温和な奴らはストレスを感じやすくて海藻に擬態することでやり過ごそうとするタツノオトシゴを模していたりとか。中ボスにあたる面々もちゃんとそのモデル生物の特色を拾って造詣されている(というか、ここでキャラクターの特徴を暗に補足している面もある)。
その点で言えば、個人的には、本作は街全体を対象とした雑踏というものに重きを置いているのだろうというのはプレイ前から感じていたことなので、ビジュアル面においても人間のモブが割と無個性さが強いほうが気になったかなという感じではあった。モブはどこまでも果てしなくモブのままで存在していただけなので、あんまり息づいた感じがなかったというか。

 

あと多分ダウンロード時に発生したエラーとか、処理が追い付いてないとかの「おま環」だと思うけれど、最後までムービー時に音声がぶつ切りになるということが発生していた。再ダウンロードし直したら直ったのかもだけれど、そうホイホイやり直す気になるサイズではないので諦めてその状態でやり通していた。ので、スペックや回線的にギリギリだと似たようなことが起きるかもしれません。

 

+++

 

以降ほとんどずっとシナリオ面の不満をひたすらに綴っております。すごく長くなります。
シナリオ以外の面でもとにかく全体的に「予算の都合」という文字が脳裏に過ぎる機会の多い作品だったし、恐らく私が指摘するような点は制作者も分かってる上でやってることだとも思うのだけれども、それでも一プレーヤーとしてとにかく書いていきます。

 

唯一と言えるほどに真っ当に好感が持てたキャラクターは頭目でした。俺は俺だと言わんばかりに最初の登場時点で仮面をかぶることすらしていないし良くも悪くも猪突猛進で真っすぐなので……。

 

感想:戦闘に自信がないのでEASYモードでプレイ。EDは二つともプレイ済み。最初に野良犬(つまるところ野狗子の本来意味するもの)に乗り移って物語が始まるのとかはだいぶムネアツでした。
ただ、長くなるので最初に結論から言うと、私は物語の部分に対する評価に偏る向きがあるのだけれど、そこから言えば、本作はかなり中途半端な作品だったと思う。物語られてるのに物語られてないみたいな。いろいろ要素が練り込まれているし、どこを切り取ってももっと表現していればすごく楽しめたはずのものが悉く圧倒的な説明不足のまま話はとにかくレールに乗っているが如くに進みEDに行く感じなので、どのキャラクターにもあんまり何にも思わないし、物語自体にもあんまりのめり込めないところが強かった。プレイアブルキャラクターもすごくいるけど、ただいるだけに等しい。一部なんかはなんでいるん?状態である。街というフィールドの中での大衆たちの群像もほぼ生きることもないどころか、主要人物たちに限った範囲の群像もろくに表現されていない。ここはだいぶお話として致命的だと思う。
最初から最後までやって、ところで本作の主題って何だったんだろうなと思ったときに何も思い浮かばないくらいフワフワしている。ここも致命的だと思う。もし予算的な都合でそこが深掘りできなかっただけにしてもそうでないにしても、いっそプレイアブルキャラクターにはしない(けど主要キャラクターとして登場はさせる)とか、そういう割り切りのほうにして戦闘モーション作成が浮いた分、シナリオを詰められるようにするとか、そういうふうにやってほしかった。プレーヤーにはどうしたって見えないけど存在しているはずの間断部分をちゃんと埋めてほしかった。
ストーリーも街の怪異譚的なもの、その中心にいる憑鬼というところからズレて、めちゃくちゃエゴイスティックにフルスロットルで暴走一辺倒なとあるキャラクターを追い掛けてこれに対立するものにすり替わっていて、おまえはわたしの鏡なのだ的な対立構造というのが出てくるんだろうなあというのは予感はさせていたけれど、なんか話がズレてないか?!?!みたいなところで収拾をつけていくというか、素直な概観で表現すると陳腐過ぎるというか……。
受け手のための余白があるというよりも、だいぶ無理して「こういうことだったのかな……」と頭の中で妄想に近い補足をしていって物語全体を補っていくことになるものだった。ただの不親切だと評せる。情報をくれ。
あと、本作ではオリジナルの文字なんかも使われているけれども、これがシナリオが進もうがクリアしようがゲーム内でちゃんと開示されることはないのもどうかと思った。SIRENの屍人文字なんかは屍人の視点を深掘りするのに適切に取り入れられていたけれども、本作、核にいるはずの憑鬼(+α)がとにかくベラベラとこれをしゃべっていたずらに話を複雑化させているだけなので、この場合、なんでプレーヤーに最後まで伏せる必要があるんですかね?という感じである。
あと、私としては評価の比重としては後回しにしている戦闘なりアクションの面も、恐らくは中途半端なラインになっていたのではないだろうか。だから、シナリオもアクションもどっちもフワフワしてしまっているというか。
時間への干渉が本作の重要なところにあるけれども、それが本作のように敵対勢力にもそれが可能であるとかいう複雑さがある分、余計に、特にストーリーの進展とかとは関係なく全く同じステージを何度もやり直すときになんでそれは何の改変もなく踏襲することが可能なのかみたいな気もちょっとする。多分、本作ではそういう場合は本当に単純に「同じステージをやっている」だけなのかなと思うけれど。ムービーだとか対話シーンで「こういうことになってますよ」と説明で処理されるところを見るに、本来は繰り返しとやり直しと改変みたいなのはプレーヤーが実際にできる範囲外のところで果てしなくやられてはいますよみたいなところでまとめているっぽいし。で、ここがまた端折られるからキャラクターの感情とか導線に置いて行かれるみたいなことにもなっているのだけれども。
個人的にまさに本作で扱われているところの記憶、意識、脳とか時空に関するものみたいなのはかなり中心に近い興味範囲のところに位置するので、なんか現状だと思うところがままあるので、やはりもう少し描いてほしかったなあと思った。憑鬼がやってることはまさに中国脳的だし、対する野狗子たちは哲学的・行動的ゾンビ的だったわけだけれども、実際それを意識して作られたかとかはともかくにしろ、そういうところも薄味だったり。
公式発信の情報でどこかで、「本作はあらゆるものに意味がある、最初に投身して死ぬことにも意味はある、無意味な死はない」みたいなことをおっしゃっていたように思うけれど(※ソースを保存し忘れたので、記憶でここは書いているだけです)、恐らくそうなんだろうなあという切れ端くらいは掴めるけれど、説得力ある物語にはなってないからどうにも困るみたいなものになっていたと思う。
真エンド条件が「人間の被害を抑える」であって街を脳に見立てたが故に発生した記憶喪失とその散らばった記憶を集めること自体は別に本当はしなくてもいいみたいなのも、なんでやねんという感じであった。本作において群衆たちが重要な位置にあるらしいということは察せるけれども、そこにやっぱり説得感はないままだったので。

 

上述からも既に滲み出して書いてきたけれども、本作、自由度があるようでレールに従わされながらプレイしているだけという感じがとにかく強かった。テレビゲームとは究極、制作者が敷いたレールを歩くものだと思うけれども、そこの意識が緩和できるようになっていない。冒頭のチュートリアルに次ぐチュートリアルで感じた「やらされている感」が最後まで続く。しかも話はフワフワしているから、「物語を読んでいる」という方向のレールの歩き方ができるわけでもない。プレーヤーは登場人物の誰の目線からも本編の進行を見守っているような感じもなく、俯瞰している立場にもなく、断片的に経過がこうなりましたみたいなのを知らされるだけみたいなものに等しい。本編とプレーヤーの間にだいぶ深刻な断裂状態及び齟齬を深く生んだまま、あっちが無理矢理軌道修正(=現状説明)して進んで行く。プレイアブルキャラクターたちの個人的な生き様も葛藤も交流も何も分からん。ほぼ分からん。ほぼほぼ分からん!!! 最終的に約2カ月(ループなりタイムリープなりしてるんだからへたすればもっと)の歳月をこの奇妙な戦いに身を投じているとはとても思えないくらい何も分からない。憑鬼とプレイアブルキャラクターたちとの交流みたいなのが重要なはずなのに、そこをうわべもいいところまでしか描かないから、記憶喪失状態で野狗子への敵意以外は無に近いところから始待ったはずの憑鬼の内面の変化なんかもこちらとしては、「そういうことになった」らしいみたいな処理しかできない(ついでに言えば、途中で発生する選択肢みたいなのもこちらからすればだいぶ唐突でしかない)。何か知らんがそれなりにみんな親密度は上げているようだみたいな感じで、はあ、さいですかみたいな読感にしかなれない。話がとにかく一方的でレールしか見えない。進行上の不自然なまでの都合の良さとかもシナリオに何か織り込んでくるのかとさえ思ったけど、特にそんなこともなく。あと、プレイアブルキャラクターとの合流も不自然に合流するような場面が多いのだけど、プレイヤーは合流するように強いられるとかもやっていてだいぶ付いて行けなかった。もう少し進行上自然と稀少体であるプレイアブルキャラクターと出会うことになるみたいなふうに持って行ってほしかった。特に話を進めてたらぬるりと勝手に仲間になる、武装組織所属のブレイクさんなんか、「なんでいるの? こわい!」って感じで結局最後まで使うことがなかった。彼なんかも、作中でたびたび発生する武装組織の介入・戦闘の流れの中で、「司令塔に取り憑いて指示を変更させよう」とかいうふうにして取り憑いてみたら実は稀少体で、彼も交流するうちに協力することにして……とかいう話の流れをすること、いくらでもできたと思うのにしなかったのが意味が分からない。大体そんな感じだと思って各々勝手に妄想して処理してくれよなってことなのかもしれないけど、意味が分からない。いたずらに疑心暗鬼にさせられただけである。話を進めると彼との対話パートでどうやら現状のブレイクさんは組織の裏切者状態か何かになって追われる身になっていたりするらしいけれど、そこにしたって相変わらず話の結果だけこっちに押し付けられてるだけなのでほんとに物語の魅力には繋がらない。彼の所属組織の話とかも断片的に何やら不穏さが垣間見えるだけでオワリ!ってされていたのも意味が分からない。
冒頭のジュリーさんの異様なまでの葛藤のなさ、憑鬼という存在の受け入れなんかもループを踏まえての「もうそれした」という無意識ゆえという設定が少なくともゲーム最初の時点ではまだ発生していないはずなので不可思議なくらいに軽いのとかも気になる(恐らくは余波みたいなものがこの時点の彼女にすら影響を与えているという面があるのかもしれない、または、あんまりそれはどうかと思うところはあるけれども、既に実際は一度目ではないとかなのかもしれないけれど)。こういう踏み込みの浅さみたいなのがとにかくずっとある。それなのに他者との合一とか意思が混ざり合うみたいな話はするという。ここをスッパリ解決せずに教団の話とかやったほうがもっと面白かったのでは……と素人目線ながらどうしても思ってしまった。
ジュリーと初接触直後の予知夢的なビジョンなんかも、恐らくは野狗子たちの中でも特異体的なあの三体は重要だよとか、このままだと九龍ないし世界が破滅する、おまえも破滅するというのも、恐らくは彼女の視点だと今後発生するループなりタイムリープの歪みが影響して先んじて彼女に見せているものなのだろうけれど、ここもなんか「そういうものです」みたいなものにしかなっていなかった。あの三体の特異性の深掘りもろくにされないままだったのでそれこそ宙を浮いている感じしかゲームを終えても分からないというのもある。
最初から最後までどういった話をやっていてもどこでも違和感と戸惑いを感じながら頭に「?」を浮かべつつ読み進めるしかない。繰り返しになるけれど、別にこの引っかかりはお話を読むにあたっての醍醐味としてのそれというわけでもなく、単に断片的過ぎて意味が分からないというものに近いものでしかない。最初の頃とかあまりにもレール運送されてる感が強過ぎなのに慣れず、「なんで今ここにいるんだっけ?」みたいな痴呆が発生もした。
シナリオに進展がある度に話が飛躍しまくってただそれを押し付けられるというのが続くのもひたすら辟易していた。それでも一応教団に侵入する辺りからクリーチャー側の複雑性なんかも垣間見えることでビジュアル面以外にもやっと物語に興味を持てるようになってなんとか私の中で立て直そうとしたのだけれども、それでもぶっ飛び具合に変化はないのでどうにもならなかったという感じ。心底思うけども、ここにしてももっとちゃんとじっくり描写していればすごく深みが出て好感度が増した作品になったはずなので。崩壊に至るまでもなんかすごい積み上げた積木の土台の辺りをいたずらに崩した感じの突拍子のなさがあまりにも強いし、その突拍子のなさをやるにしても納得できるようにできていない。丁寧に描いてほしかった。本当にそこに尽きる。
例えば、冒頭でまだ憑鬼と接触していないのに恐らく執拗にジュリーが野狗子に追われていたりとか、他の一部プレイアブルキャラクターも逃げまどっていたのとかも、後の憑鬼の接触によって生まれていく歪みの結果、野狗子たちにとって(恐らく意識して敵認定はしていないまでも)過剰に追い回すほどの執着を生ませたことになるのかなとか、どういう理由でなるのか分かんないけど稀少体という存在だと何らかの執着を齎すのかなとかぼんやり考察みたいなことはできるけれど、決定打として認識することにはなれないみたいな。憑鬼が(恐らくは)実際に接触する前に野狗子たちが半ば迷信的に自分たちを倒しにやって来る存在の知識を共有していたり(そしてどうやら実際に対面したらそれとすぐに分かるらしい)ということとかもそういう歪みが働いているということなのだろうとはぼんやり予想はできるけども、ふわふわ。あの過剰なまでの取りあえずの敵意・害意で化けの皮を脱ぐみたいなことになるのとかもなんかもうちょっと隙間を埋めて展開してほしかった。
リサに取り憑く特異体の野狗子とつるんで憑鬼たちと対峙してくる野狗子たちなんかも明確に何らかの意図で以てそれをやっていたりとか、他の一部野狗子にしても恐らく何らかの考えがあってその行動をしているらしい素振りだけは見せるけど、そこについて「恐らくはこうだったのかな……たぶん……」以上にはちゃんと考えが付けられるだけの描写がなかったのもいちいち気になる。一部特異体なんかはいっそ母胎化に近いようなことしてたけど、それもどうとも考えにくいまま話は終わりだったり。
銀月さんと教団のお話なんかも上述しまくっている「間隙あり過ぎて断片を押し付けられているだけ」が強かったのが至極残念だった。ここももうちょっとこっちが何か思えるところまで踏み込んで描写して展開してほしかった。人間とは違う存在との共存、互いに対する葛藤、本能に染み込んでしまった、実際のところは恐らく「絶対に」脳みそを摂取し続けなければいけないのにもかかわらず、それと知らず、また知っていても恐らくは抗えなかっただろう、脳みそを食べたいという食欲への恐怖、妥協。教団の秘密を知ってしまっても家族ごっこを続ける後ろめたさ、この温水のような場所に居るための開き直り。本当に何も知らないだろう野狗子もいれば、手を血に染めて無邪気に生きている野狗子(一部の人間もか?)もいるし、生きた家畜として存在しているのも知らずに家族ごっこをしている人間もいるというなかなかな場所になっているのに、その地獄を至極表面的にしか描かないという惜しさ。何も知らないにしても恐らくは不自然に消える人が結構な頻度であるだろうにみんなそこには目をつむっていたということだろうから、そういうところからも垣間見える根本的なドライさ、他人への無関心とか、ここがまた銀月さんの歪んだ在り方そのものと重なるはずなのにふわふわしている。こういうところにしたって現実の九龍城や現実社会の人間たちで凝縮された空間の、一つ一つの顔がモザイクを描いて溶けあったり分かれたりしている気持ち悪い模様とも重なるはずなのだけれども、味が足りない。合一というものの夢と、それを導く者に落ちている影と現実。記憶を偽りながら時には冷酷になってでも理想を叶えようとする虚しさ……。やろうとしてることはめちゃくちゃはちゃめちゃにここなんかは好みだったので、本当に本当に本当に!!!残念だった。実際は分かり合うことは難しい絶対的他者との共存への理想、どこか安心できる場所、自分の居場所となる場所を切に求める気持ちによる足掻き、他者との交流、繋がり。そしてここなんかも、野狗子という存在が抱えている「意識」というものの曖昧さ、その合一した気になっている者もいる他者を取り入れた気になっていることとか、ほんと、ここはもっと丁寧に展開させるべきだった核の一つでしょうというのがまた積木崩し的にぶち壊すことで解決するので悲しかったとすら言える。本作、全体に亘ってお話が持つポテンシャルは感じ取れるので、そこがもっとしっかりしていたら普遍性のあるすごい作品になれたと思うんですよお……。ここなんかまさにほかのシーン以上に現代社会の現実とも重ねた上で(本作の展開的には)絶望的なものをも投射しつつ複層的に描けたはずのところなので。この教団の話だけでもマトモにやれば一つのゲーム作品にできるだけのボリュームがあるので裁量は難しいだろうけれども、それにしたってあまりにも端折り過ぎである。社会も描かないし人も描かないのに中途半端にその残滓的なものは見せられるがひたすら繰り返される。憑鬼だとか側の異様なまでの早まった言動とかいうド人災でとにかく事態が悪化してるのとかばかりでもある。これに関してはそれならそれでもいいので余談だけれども。
スキンヘッドの薬師さんやその周囲の関連キャラクターたちの派閥なんかも教団とはまた違った在り方を示していて面白いところだったのに、結局、主要人物たちの面倒くささに巻き込まれるだけの立ち位置としてしか機能していなかったのとかも残念だった。あの集団だって行き場のない異邦人たちのコミュニティーを描くもので、だいぶ表現のしようがあったのに、匂わせて終わるみたいな。真面目に扱ってたらここにしたってキリがないからだろうけども。ずっとこういうのばかりである。

 

全体に言えることだけれども野狗子面子のあのすぐ破れかぶれになる感じとかもご都合上そうなるというだけならもはや何も言うまいだけど、あの割かし共通している性格、計画力があるように見せて全く誰にもこれがないのであるなところとかも、何かしらの描写がほしかった。ここはちょっと余談にもなるけど、あまりにも目に付く部分ではあったので。
憑鬼がどうかとかよりも稀少体側にも意識があるんだから、ある程度落ち着いて話せそうな余地がある野狗子もいるというのが分かったなら、話してみないかとかいう意見が出るような節もないのも違和感バリバリであった。だからその状態で物語ラストのほうでああいうふうになっていくのもやはりなんかこっちは置いて行かれている感じが強かった。
野狗子たちのその本能の実際は無いに等しいものなのに執着してしまう虚無の蝗としての絶望の実態とかのその今ここにある現実の無意味さとかも本編の進展と共に発生するどうしようもない時間軸の歪み、ループと共にすごく好みで、本当に好きになれる要素が随所にあるだけに本当に終わった後の余韻(どころかプレイ中ずっと)残念な気持ちが強くて。変わっていく香港(風のどこか)、取り壊される目前の九龍城(的などこか)の、雑然としたその場所への郷愁と乗っかっているはずのその救いのない虚しさと、その変わっていく現実の混沌で確かに息づいている生者と化物の生々しい活気があり廃れゆく悲哀もある息遣いと生きていこうとするがむしゃらな生きることの戦い。本当にやってることはとにかく好みなので、好みなのに、ストーリーが雑。悲しい。人間にしろ野狗子にしろ、自らの獣性との葛藤みたいなものも触れてはいるけどここも深掘りはしないままそういうものとして展開していたり。抑圧と不安の閉塞感の恐怖をしっかり描いてほしかった。アレックスさんとかもそもそもどうしたって共感できないキャラクターではあろうけれども、その内面を表面的に処理し過ぎてて余計どうでもいい感じにしていたのとかも本当に残念だった。
発売前のPVでは感じられた、隣人(=他人)という存在の底知れなさ、不気味さみたいなところも本作では全くないと言えるほど掬い取られてなかったりもした。末期の九龍という歴史的にも時代の狭間に位置していた場所の雑踏でのこういう怪異譚っていう着想はすごく好みだったのだけど、調理が微妙だった。

 

個人的にできれば敵対しているとはいえあんまり「戦う」ということはしたくないなあと思っていたのだけれど、本作はエンカウントすなわち撃滅せよを強制されるものでもあった。一部、無視して進むこともできるけれども、基本的には殲滅を強いられる。こっち側もあっち側も害意に溢れたやつが多いというか。憑鬼がそもそも野狗子の絶滅を目的にどうやら活動していることからお話は始まるのでもはやどうしたって避けようがないのだけれども。基本的に野狗子は放っておいたらそこに生きている人々の生命の危険に直結もするから、それが無視できないなら戦うしかないということにもなるのだけれども(メタなこと言うと、放っておいたらおいたで憑鬼がやって来ることになるようなループは避けられない事態になるんだろうし)。温和であるはずの敵も結局何よりもまず戦うコマンドを選択して突っ込んでくるって感じなので、そこもなんだかなあとはちょっと思った。
物語が進むとここの戦闘なんかも時間をいじった影響とかもあるんだろうけれど無理矢理発生している感じがして、こういうところも無理矢理こっちが半分以上妄想で補うことができないわけではないけど、その必然性をもっと作中で提示してくれよとも思った。
憑鬼の特性を思う存分生かすためだろうけれども、戦闘時にモブがやたらといるのも不可解な戦闘場面もかなりあって、そこの不自然さが払拭されることもないのが本当に本作では悪目立ちしていた。
この憑鬼の特性にしても、街中だとかで取り憑くことができないモブ(恐らくは野狗子)がそれなりにいるのに両者共に無反応(独白もなし)でいたりとかも意味が分からなかった。だから、憑依という行為すら、なんか、やる・やらないがゲームの既定路線の都合に左右されまくっている、要はここでもレールに乗らされている感じがあった。中ボスにあたる姐さんとかも最初はそういう感じで処理されるので、進行上の都合で取り憑けないのかとプレーヤーに対して不誠実なミスリード的なものをしてきたりとかも地味にイラッとした。しかもその後の展開であいつはおかしかったんだ的に言及するから、何なんだよとすら思う。プレーヤーが不必要に置いて行かれる。「なんでわざわざそうするのか」ということに対して納得させてくれない場面がこういうことにしろ結構ある。中ボスの特異さとかもよく分からないままだし。最初に姐さんから倒したのだけれども、いきなりやけに凝った変身モーションと特別なデザインのクリーチャー姿、戦闘もちょっと違うとかされて、これが中ボスだというのは理解したけど、なんで???という、ここも点と点がつながらないところがあって、最初は鳩に豆鉄砲状態でバトルしていた。

 

あと、シナリオ上で言及されるわけではないけど、背後の額とかで易経に触れていたり、鍾馗像があったり(何なら現実には台湾にあるはずの壁画すら取り入れられている)、ビラや落書きが意味深だったりとか、海に関するものを祀った廟を出していたり、そこからシナリオにこう絡み合うことができるんだろうなという期待をさせるだけさせて肩透かしだったのも気になる。ここら辺もこちらがほぼ妄想に近い考察をすることで繋げられないこともないけど(少なくともプレイ中はそこを頭の端で考察しながら進めていたのだけれども)、あまりにも確信するためには素材の接合が緩すぎるみたいな。恐らくは無意味というほど無意味に置いているわけがないはずなのだけども。
そういうのするのが好きなので探索できるときはとにかくうろうろ細々と眺めては書かれている落書きの類もちゃんと読みをしていたので、そういうひとときはかなり楽しかったのだけれども。「只顾收获 不顾耕耘」っていうここも易経に影響があるのだろう言い回しを皮肉に言葉を置き換えてるものとかもあったけど、これとかは恐らくシナリオとは関係してこないものだと思うのだけど、実際の九龍城にあったのかなとか。実際の九龍城(の特にその末期の取り壊し)を連想とするような反対スローガンの落書きも確認したものだと一つだけあったりとかして、そういうところは面白かった。彷徨いたい。
そしてまたシナリオに対する不満足にここでも話が延びてしまうのだけど、90年代の九龍城を中心に香港をモデルにしている割に、その土地や歴史に紐づくものとシナリオが結び付いていない(少なくとも私にはそう読み取り難いものだった)というのも残念だった。ここを強くしすぎると架空の場所というふうにできないのと政治批判の色的なものが濃くなるから回避したのだとは思うけど、やるならちゃんとやってほしいというのが素直な気持ちである。この土地であることの意味がヴィジュアル面の興味以上のものが本編をやっても少なくとも私にはろくに感じられない。舞台は整っている、素材的にもそれがどういう形になるのであれできる。でもしません、少なくとも暗喩レベルでもはっきりとは描きませんっていうのは、なんかビジュアルだけ採用しましたみたいな感じで嫌な感じがする。特に現在の視点からいくらでもそこから切り込んでいけたところを恐らくはそうはしなかったという。ここも私としては本作の好かなかったポイントだった。最終的に、本作の主題って何だったんだろうなという感じになってしまっているくらいだし。香港(じゃないけど)が抱える複雑な重層を在りし日の終末期の九龍城の混沌と重ねて人々の雑踏というものを正面からちゃんと捉えてほしかったし、私はそこに期待していた。結果、人間を描くこともほとんど放棄しているものになっていたと思った。繰り返しになるけれども。本作において重要なはずのモブの扱いの圧倒的代替可能感(唯一無二ではないところ)なんかも随所に滲み出ている扱いなんかも、それでいいのか?ともひたすら思った。
というわけで、ストーリー上で直接言及される以外の面もそれを補強して面白くするために働いていたりとかもするけど、いかんせん土台のストーリーが穴だらけゆえに調味料的な役回りになりきれていないように思った。漢詩や古典の引用とかも面白くはあったし、その引用源の意図するところは分かった上で、作品と照らし合わせての意味とかもぼんやり繋げて考えてみても、「で?」になってしまうというか。これに関しても銀月さんのところとか特に惜しいことをしていると思う。妄想に近い考察で補うに、すごく切ないことをそこに込めているはずなのに。

 

イムループである地点に戻ったら歪みが発生して以前とはっ異なる進行が発生してしまったとかいう、いわゆるバタフライエフェクト的なものだとかの差分(ついでに言えば因果の収束とかもあるけども)も時空を扱うにあたって本作では発生させているんだけれども、そうして明確に発生時間のズレが起きているはずなのに、街中のモブの会話が変わらないとかいう不自然さもいちいち気になってしまった。この辺の遊びがないというか。
あと、彼女の脳みそだと気が付いてしまうトミーが出現したときなんかも、おまえどこから生えてきたの?みたいなことになっているのとかも恐らく単なる矛盾状態のまま放置されていたりして、そういうのとかも気になった。例えば、このくだりのちょっと前にトミーが部屋の出入り口から現れるところを描くとかするだけでも引っかかりにならずに済むのにそれをしないでおよそ居るはずがないわけ分からんところから出現させているというか。そういうちょっとした描写の付け足しのなさみたいなのも多かった作品だと思う。

 

余談だけれども、「憑依する」ということから憑霊のことを「夜梟」「豹头鹰(※豹の頭をした鷹の意)」と名付けていたけれど、それで言えば梟はまだ分かるけれど、なんで豹なのだろうと素朴な疑問を感じた。豹に一切そういう表現がないとは言わないけど、少なくとも中国的なところに則れば虎のほうが合ってると思ったのだけれども。何か元ネタがあるのかな? そもそも豹头鹰って何だ? 猫头鹰ならミミズクだけど、豹頭の鷹って書いて何? 豹猫でヤマネコだからこれもミミズクなのか?とか、そういうことも永遠終わらない問いとして発生していた。

 

さらに余談だけれども、頭目の部屋の前に飾ってあるやたら目立つ額、なにやら思わせぶりだし明らかに何らかの文章を書いているようには見えるのだけれど、だいぶ独特な時の崩し方をしているのもあり、私には読解できず。あれは何て書いてあるのだろう?