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【翻訳】詩「Pietistenwalzer(敬虔主義者たちのワルツ)」(ゴットフリート・ケラー)

記事作成日:2021/08/01
最終更新日:2021/08/08

▼ 更新記録(ここをクリックで展開)
  • 2021/07/14
    • 誤記修正:見出し「歌詞(原文・翻訳)」→「詩(原文・翻訳)」
    • 加筆修正:「Schweizerisches(スイスの(詩))」の全詩の翻訳記事を作成し終えたため、各詩記事へのナビを追記。
    • 加筆修正:「概要」部分の「一連の「Schweizerisches(スイスの(詩))」~」の一文を追記。
    • 誤記修正:記事URLの変更。「translation_keller_pietist」→「translation_schweizerisches_keller_pietist」へ。
 

 

 本記事では、「Schweizerisches(スイスの(詩))」としてまとめられている一連の詩の一つであるゴットフリート・ケラーの詩「Pietistenwalzer(敬虔主義者たちのワルツ)」を自炊翻訳したものを掲載しています。
あくまでド素人がなんとか読んでいるようなものであるため、誤訳箇所などあればお教え頂ければ幸いです。

 

概要

一連の「Schweizerisches(スイスの(詩))」はすべて、ケラーも深く関与したスイス国内(※厳密にはこのように表現するのは誤りではあるが、ここではそのようにしておく)での宗教改革およびそれに関する内紛を背景にしたものになっているため、19世紀ごろのスイスの歴史を踏まえておく必要がある。ケラー自身はいわゆるプロテスタントないしリベラル派、改革派のほうに立場を置いていた。

 

「Pietist(敬虔主義者)」は、転じて、「極端な信心家」という侮蔑的な意味を含むこともある。この詩ではこうした侮蔑の意味が込められていると思われる。

「Schweizerisches(スイスの(詩))」の翻訳記事一覧

当ブログでは当該シリーズに収録されている各詩の翻訳もそれぞれ記事として作成している。

  1. An mein Vaterland(我が父なる土地に寄す)
  2. Waldstätte(森林地帯)
  3. Jesuitenlied(イエズス会士たちの歌)
  4. Pietistenwalzer(敬虔主義者たちのワルツ)現在表示中の記事
  5. Apostatenmarsch(背教者たちの行進曲)
  6. Auf Martin Distelis Tod(Martin Distelisの死に寄せて)
  7. Bei Robert Steigers Befreiung und Ankunft in Zürich(Robert Steigerの解放とチューリッヒへの到着に)

ゴットフリート・ケラー(Gottfried Keller)について

19世紀スイスを代表する作家のひとり。紙幣の顔になったこともある。『Der grüne Heinrich(邦題:緑のハインリヒ)』が特に代表的な作品といえるが、この作品を含めケラー作品が翻訳されて国内で出版されたのは20世紀頭ごろ~中ごろにいくつか集中している程度で、現在の日本人にはなじみが薄い作家かもしれない。

(原文・翻訳)

※原文の引用源:WEBサイト『Zeno.org』内「4. Pietistenwalzer」(最終アクセス日:2021/07/30)
出典は以下とのこと:Gottfried Keller: Sämtliche Werke in acht Bänden, Band 1, Berlin 1958–1961, S. 130-131.

原文

Nun stimmet die Harfen und salbet die Geigen
Und gebt euch die Händlein zum himmlischen Reigen,
Ein Weiblein, ein Männlein,
Ein Hühnlein, ein Hähnlein,
Je zwei und zwei, wie sich's am besten schickt
Und man sich am frömmsten zu Herzen drückt.

Sind alle da? Ei, so verschließet den Himmel,
Laßt draußen das sündige Pack und Gewimmel,
Verberget die Kniffe,
Die lüsternen Griffe,
Wir haben den Geist uns zu Fleische gemacht
Und feiern subtil die urewige Nacht!

Zu wecken die schlaffen, wollüstigen Gluten,
Bestreicht uns der Satan den Hintern mit Ruten;
Die heilige Völle
Durchwürze die Hölle!
Nun löschet die Lichter von ungefähr;
Das Töchterlein tanzt mit dem Missionär!

O süßliches Grunzen, o seliges Dunkel,
Begehrliches Suchen und tappend Gemunkel!
Mich fasset ein Schwindel!
Bacchantisch Gesindel!
O heilige, himmlische Windbeutelei –
Hinschmelz ich und sied ich im seligsten Brei!

翻訳

いま この竪琴たちは調律され ヴァイオリンたちは聖油を塗られた
そして 天の織りなす輪舞に向かい 彼らはその小さな手を差し出すのだ。

一人の女、一人の男、(※1)
一羽の雌鶏、一羽の雄鶏、(※2)
いつか 2人と2羽とは、最も良いめぐりあわせのほうへと向かい
そして 最上の信仰を目指そうと心に刻みもしよう。

ここに存在するのはそれが全てなのか?  ああ、そうして天は閉じられた。
罪深きならず者と群衆は外に放り出されたまま。
小細工は隠され、
その淫靡なる指使いで以て、
われわれが抱いた魂を基にしてわれわれは肉体を形作られ
そして 久遠の夜は巧妙に祝われた!

それは無気力に目覚め、官能的に燃え立ち、
(※3)を手にしたサタンに尻を打ち据えられる。
この聖なる満腹感が
地獄に風味を効かせている!
いまやあの光たちは消えたのだ 偶然にも。
あのかわいい娘があの宣教師と共に踊り!

おお 甘ったれてぶつぶつと不平を漏らす豚よ、おお 満ち足りし暗闇で、
貪欲に鼻を効かせて探し求め おぼつかない足取りでひそひそと陰口を叩く者よ!
眩暈に私は捉えられるぞ!
おお 聖なるものよ、天の傲慢からなる淫穢《いんわい》よ──
私をとろかせるほうへと導け そして その最も聖なるぬかるみ(※4)の中へと追いやるがいい!

 

※1 「Weiblein(女)」と「Männlein(男)」も厳密には普通、「体格の小さい女・男」を指す。「...lein」が「小さいもの、可愛らしいもの、親しみのあるもの」を表し、転じて侮蔑的なニュアンスで用いられもする。上の行で「Händlein(小さな手)」という言葉が用いられていることからも、か弱き者という存在としての表現なのかと思う。

※2 上記の※1と同じく、これも「...chen」を含んだ言葉なので、同じような処理になる。

※3 「Ruten(枝)」は「枝でできた鞭」をここでは表しているが、ペニスの暗喩として用いられている可能性もある。

※4 「Brei(ぬかるみ)」は「ジャム、粥」などのどろどろしたものを表す語彙で、転じて「ぬかるみ」を表す。「できそこない」の表現にもなる。